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連載インタビュー
「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~
第7回:北野久美さん(前編)
文:勝見文子 編集協力:河井健
本企画「連載インタビュー『保育の質』を考える」では、これまで6回にわたり、保育現場に詳しい専門家らにお話をうかがってきました。少子化が進む一方で、働く女性は増え、保育ニーズは高止まりしています。保育士不足や不適切な保育など、山積する課題にどう対応し、いかに「保育の質」を向上させるか――。テーマごとにいただいた指摘を踏まえ、最終回の今回は、連載を振り返り、全国保育士会副会長で認定こども園「あけぼの愛育保育園」(北九州市)の北野久美園長と、その道筋を考えます。
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北野 久美 (きたのくみ)さん
認定こども園「あけぼの愛育保育園」園長、全国保育士会副会長
1957年生まれ。2007年より北九州市保育士会会長(現在9期目)、2016年からは全国保育士会副会長。北九州市にある認定こども園「あけぼの愛育保育園」の園長。「子どもの傍らに在る者の使命」を意識して保育を展開。保育士のキャリアアップ研修会はじめ保護者ら対象の子育て支援研修会や講演会等の講師も務める。保育士の社会的地位の向上がライフワーク。

目次
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1.子どもとの関わり
- 初回は「よりよい保育を目指すには保育士同士のコミュニケーションが大切だ」という指摘が出ました。一方で、それが不十分な園も少なくないようです。必要なのは何でしょう?
-
園の風通しをよくすることです。そのために「風を起こす」キーパーソンが必要だと思っています。園長や主任、主幹保育士らがそれに当たりますが、経験や年齢だけで決める必要はありません。
キーパーソンには、職員会議のような堅苦しい場以外でもフランクに、常に周りに声をかけることを意識してもらう。「こんな記事を読んだのだけど、どう思う?」とか「近所でこんなことがあったよ」とか。何気ない問いかけで構いません。そうした小さな繰り返しが、保育の質を高めるためのコミュニケーションにもつながります。風は起こそうとしなければ起きません。
2.不適切な保育
- 第2回では、不適切な保育が起きてしまう背景として、「国の定めた保育士配置基準が現状にあっていない」「保育士の労働環境が過酷だ」という意見が出ました。どうお考えでしょうか?
-
先に強調したいのは、賃金や人員が少ないから不適切な保育が起きるわけではない、ということ。実際、多くの園では起きていません。不適切な保育と労働環境の厳しさはイコールではないのです。
そのことを前提に、戦後まもなく設けられた最低基準の保育士配置等が変わらなかったのは、やはり問題だったと捉えています。昔と今では親や子どもを取り巻く環境が一変し、園に求められるものも格段に増えました。にもかかわらず、仕組みが追い付いていないのです。
基準ができた昭和の時代、親の周りにはたくさんの子どもがいました。言い換えると「子育てのモデルになる人」が身近に存在したということ。そうした環境のもとに、保育園はありました。
しかし、少子化が進む一方で働く女性は増え、子育てのモデルや親が子どもと関わる時間は減りました。その結果、親が「子どもの育ちのステップ」についてわからなくなってしまった。トイレトレーニングや離乳食、お箸の持ち方といったことです。園は今、それらを丸投げされているように感じます。
さらに国からは、役割の一つではありますが、地域の子育て支援といったことまで過剰に求められている。基準はほとんど変わらないのに、です。こうしたことが現場の疲弊につながり、ひいては不適切な保育の一因になっていると考えます。
3.安全管理
- 静岡県の認定こども園で2022年、園バスに置き去りにされ、女児が熱中症で亡くなった痛ましい事件を引き合いに、第3回では安全管理について話していただきました。保育施設で安全管理の意識を高めるには、何が必要なのでしょう?
-
二つあると思います。まず「人はミスを犯すし、安全管理の機器も不具合を起こす。だからこそダブルチェック、トリプルチェックが不可欠だ」と徹底することです。これは正規・非正規にかかわらず、職員全て同じです。
バスの例で言えば、置き去り防止のブザーが付いていても、その操作に気を取られ、椅子の下に寝転がった子どもに注意が向かないかもしれない。タブレット端末で出欠管理していても、Wi-Fiが不具合を起こすことだってあるでしょう。
それと関連しますが、二つ目は「何のためのチェックか」を常に意識することです。ブザーや端末の操作は「目的」ではありません。
別の例も挙げます。保育施設には自治体の監査が入ることがありますが、ともすれば両者とも「監査項目をクリアにすること」を目指してしまいます。機器の操作も監査も、それ自体ではなく、「子どもの安全を守ること」が本来の「目的」です。同様に、安全管理のマニュアル化は重要ですが、ただそれを作って終わりではなく、見返すことを習慣づけなければなりません。
チェックに慣れてはいけないし、子どもの安全を守る人たちが慣れあいになってもいけないのです。
北野先生がご所属の、全国保育士会のHPです!↓
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北野久美さんのインタビュー記事【後編】はこちら
連載インタビュー「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~
これまでの掲載記事です。
第1回 テーマ:子どもとの関わり(福田翔さん)
(前編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/14985821
(後編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/14985827
第2回 テーマ:不適切な保育(村山祐一さん)
(前編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15015398
(後編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15015421
第3回 テーマ:安全管理(永倉みゆきさん)
(前編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15108684
(後編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15108692
第4回 テーマ:保育士の専門性(小崎恭弘さん)
(前編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15251393
(後編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15251398
第5回 テーマ:保育士の働きやすさ(野上美希さん)
(前編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15453657
(後編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15453664
第6回 テーマ:保育士のキャリア形成(中田純子さん)
(前編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15577608
(後編)https://www.asahi-welfare.or.jp/archives/15577648