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朝日新聞厚生文化事業団トップページ 最新のお知らせ 連載インタビュー 「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~ 第3回:永倉みゆきさん(後編)

最新のお知らせ

連載インタビュー
「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~
第3回:永倉みゆきさん(後編)

文:勝見文子 編集協力:河井健

永倉 みゆき (ながくら みゆき)さん
静岡県立大学短期大学部こども学科教授、同短期大学部部長

1958年生まれ。静岡市内の小学校や幼稚園で勤務後、2004年、常葉学園短期大学専任講師に就任。同短大准教授を経て、14年に県立大学短期大学部社会福祉学科教授に。16年よりこども学科教授となり22年から学部長。家政学士、教育学修士。保育者の研修会の講師をはじめ「静岡市子ども読書活動推進会議委員」「静岡県就学前教育推進協議委員」「静岡県社会福祉審議会児童福祉分科会子ども子育て支援部会委員」「ふじさんっこ応援大賞審査委員長」「“ふじのくに“士民協働 施策レビュー専門委員」「保育所移管先選定委員会」等、行政の子どもに関する委員会に多数関わっている。

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目次

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1. 保育者不足

全国的には保育者の数が足りていないと言われていますが、何をどう変えていくべきでしょうか?

保育者不足の一因は、辞めたまま現場に戻らない有資格者がいることです。労働時間と賃金がその大きな理由でしょう。保育者だって「お母さん」や「お父さん」であることもあります。勤務していた保育施設が長時間労働ならば、自分の子どもはさらに遅い時間まで預けなければならなくなる。それでは復帰を躊躇う人もいるはずです。保育者の働き方を変えていかなければなりません。また、「保育者は責任の割に賃金が低い」と言われています。国や自治体は、保育の仕事の価値を見直し、賃金に反映させていくべきでしょう。

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前回少し触れましたが、今、地域の人たちに保育の現場に入ってもらおうという動きがあります。こうした動きを進めることも、保育者不足を補います。昔の子どもは当たり前に地域で見守られながら育ちました。ただ、例えば今の若い世代と年配者では、子育て観が合わないケースもあるでしょう。子どもとの関わりに興味を抱いてくれる人たちに、どういう形で参加してもらうか、いかに保育の心を伝えていくか――。そうしたことを考えるのも、保育者に求められています。保育の仕事は多忙です。だからといって、何でもマニュアル任せにせず、これを機会に時間をつくり、話し合って進めていくことが重要です。

2. 地域で保育を行うこと

牧之原市の事件では、運転手は当時の園長(理事長)、同乗者は市シルバー人材センターからの派遣職員でした。有資格者ではない人が、保育の現場に関わることの難しさを指摘する声もあります。地域の人が現場に入るにあたり、研修や専門知識は必要ではありませんか?

事件では、「子どもたちを守るため、自分がどういう役割を果たせばいいか」について、園長が理解していませんでした。派遣職員も十分に役割を伝えられていません。その点に重大な瑕疵がありました。

ただ、地域のさまざまな人たちが保育に関わることは、大切だと思っています。 今の社会には「地域みんなで子育てする」という感覚が足りていません。昔と比べ希薄化している。子どもと地域が分断され、そのひずみが子どもを取り巻く事件や事故として現れているような気がしています。保育施設をただ「子どもを時間で預ける場」に留めるのではなく、もっとみんなで活用し、そこを中心として、地域で子育てしていこう、という気持ちがわき上がることを願っています。

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保育には専門性が不可欠なところもあります。そういう部分は引き続き有資格者が担うべきです。でも、地域のみんなが必ずしも専門性を持つ必要はないのではないでしょうか。私は、一般の人が保育に関わる時に、研修ですべてまかなえるとは思っていません。受講中、ほかのことを考えていても、時間が過ぎれば終わりになるなら、あまり意味はないですから。

保育の全部を委ねるのではなく、その人にあった領域を切り出して、任せることが大事なのだと思っています。そして保育に参加する中で、専門家の子どもへの関わり方を理解し、それを支援していただければよいと考えます。

3. 保育に携わる人へのメッセージ

確かに地域ぐるみで子育てしていくことは大切ですね。一方で、施設の外にも子育ての場を広げていくとなると、従来とは違った安全管理も必要そうです。保育者が心がけるべきなのは、どのようなことでしょうか?

子どもの安全を守ることは重要です。この点、保育施設や幼稚園では、小さなケガがあったとしても、大きなケガに至らぬよう、さまざまな対策がとられています。いわば特別な場所なんです。

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これに対し、送迎バスも含めた施設の外では、安全に十分配慮しなければなりません。ただ、その上でですが、置き去りのような事件は論外として、あえて誤解を恐れず言えば、幼児期に大切なのは「いかに安全にケガをするか」ということなんです。子どもが自分で自分に気をつけられるよう育てていく。それこそが一番の安全教育なのです。

今の保育現場では、保護者は「子どもを預けるお客さん」、保育施設は「子どもを預かるお店」のようになってしまっています。望ましいとは思えません。保育に携わるみなさんには、子どもを「預かる」のではなく「一緒に育てている」という気持ちを抱いてほしいのです。自信を持って、それを保護者や地域に訴えかける。大切なのは「子どもはみんなで育てるものだ」という意識です。

牧之原市の事件はとても痛ましいものでした。子どもに関わるすべての人に、「子どもはみんなで育てるものだ」という意識があれば、機械的に「登園」したと判断し、女児を車内に置き去りにするようなことは起こらなかったかもしれません。

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