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朝日新聞厚生文化事業団トップページ 最新のお知らせ 連載インタビュー 「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~ 第1回 テーマ:子どもとの関わり(前編):福田翔さん

最新のお知らせ

連載インタビュー
「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~
第1回 テーマ:子どもとの関わり(前編):福田翔さん

文:河井健

福田 翔 (ふくだ しょう)さん
株式会社ソングブックカフェ・あそびうた作家

都内の保育園に8年間勤務した後、2014年より、あそびうた作家として活動開始。全国でファミリーコンサート、保育者向け講習会等を行っている。 2018年、「おかあさんといっしょ」(NHKEテレ)2月の月の歌『おはよう!』の作詞・作曲を手掛ける。「アンパンマンくらぶ」(BS日テレ)に出演。2020年、『おいで おいで』(赤ちゃんとママ社)で絵本作家デビュー。自身初のオリジナルフルアルバム『ともだちの花』(日本コロムビア)発売。2023年『福田翔の ~音とあそびのワンダフル☆ワールド~』(日本コロムビア)発売。

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目次

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1.あそびうた作家になったきっかけ

福田さんは保育園にお勤めの後、あそびうた作家として活動されています。どんなきっかけで作家になられたのでしょうか?

もともと保育士をしていたころからギターを弾いて、子どもたちと童謡や讃美歌を歌っていました。高校時代、男性デュオの「ゆず」がすごく流行っていて、友だちとコピーしようとアコースティックギターを始めたんです。大学でも続けたので、ギターを弾けたんですよ。

ある日、園児がヤクルトの空き容器を差し出し、「先生、これで歌つくって」と言ってきました。面白いなあ、と思い、やってみたんです。それがあそびうたづくりのきっかけでした。この時にできたのが『ヤクルト兄弟』です。

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2009年、絵本と歌を楽しめる「ソングブックカフェ」が「あそびうたグランプリ」を主催すると聞き、『ヤクルト兄弟』を応募してみました。全国からあそびうたを手掛けるみなさんが集まる大会だったんですが、なんと、『ヤクルト兄弟』は予選を突破したんです。この時、中川ひろたかさん、ケロポンズさん、新沢としひこさんといったこの分野の第一線で活躍されている方々にもあそびうたを見ていただく機会を得ました。

こうした経験がきっかけで、「もっと歌をつくっていこう」という思いが芽生えたんです。年一回のグランプリに向けてあそびうたをつくったり、保育の現場にとりいれたり。そのうち、「歌を通して子どもと関わりたい。親子と遊びたい。そういう仕事をメインにやっていけないか」と考えるようになりました。

結局、2014年3月に保育士を辞め、翌月から今の事務所に所属。あそびうた作家としての第一歩をスタートさせたんです。

2.子どもが注目するための工夫

福田さんは現在、保育園や幼稚園などであそびうたのコンサートを開いています。子どもに注目してもらうため、心がけていることはありますか?

僕は園の外から訪れるので、子どもたちはすぐ「あ、だれか来た!」と注目してくれるんです(笑)。そのうえで、まず視覚的に注意を向けてもらえるよう工夫しています。

たとえば、「みんな、パーってできる?」「今度はグーね」と口にしながら、手でパーやグーをつくってみせる。さらに「グーをぐるぐる回してみよう」「リラックスして手をぶらぶらさせて~」みたいにわかりやすい擬音や言葉を添える。すると子どもたちは真似してくれて、どんどん遊びの雰囲気になっていきます。

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速く回している子どもがいたら「負けないぞー」と言いながら僕も速度をあげてみせる。続いて「今度はスローモーションだ」とゆっくりに変えてみる。そして再び「また早く!」とぶんぶん回す。子どもたちは真似しながらゲラゲラと笑ってくれます。

緩急を楽しむような動きによって、「これから遊びの時間が始まる。自分を解放していいんだ」と子どもたちに感じてもらうんです。コンサート前の雰囲気づくりですね。僕自身もその雰囲気に乗せてもらい、あそびうたを始めます。

保育士のご経験も役に立っているんでしょうか?

そうですね。「歌のお兄さんみたいな感じ」と言われることもありますが、あそびうたには「歌」だけでなく、「遊び」の要素が含まれます。「遊び」には、子どもの意見やアイデアがあり、大人とともにつくっていく、つまり、コミュニケーションが存在します。僕が一方的に主張するのではなく、一緒に楽しむ。そういう点が保育に近いと感じるし、大事にしたいと思っているところでもあります。

「つのつのつ~の」という手遊びで説明しましょう。これはいくつか動物を挙げていくなかに、つのがない動物が出てくるというものです。「サイのつの、トナカイのつの、ネコのつの、ない!」と。そこで僕が「ネコはつのがないよね。ほかにつのがない動物はいるかな?」と尋ねるんです。すると子どもたちからどんどん答えが出てくる。たとえばそれがライオンであれば、「そうか、ライオンもないね。じゃあ、ライオンでやってみよう」となるわけです。そのように、子どもたちの意見も取り入れながら遊んでいく。それがあそびうたの魅力なんです。

3.現在の保育園の改善点

なるほど。確かに双方向のコミュニケーションですね。あそびうた作家として数多くの保育園などで活動するなかで、保育について改善すべきと感じるところがあれば教えてください。

保育士同士のコミュニケーションってすごく大事だな、と感じています。実際に悩まれている方も多いようですし。難しい面もありますが、上司、中堅、新人といった立場や、性別にかかわらず、保育士同士がきちんとコミュニケーションをとり、子どもの様子をどれだけ伝えあえているかは、一つの大事なポイントでしょう。

保育士の皆さんからは「お互いにもっと子どもの話ができるといい」といった声を聞きます。たとえば休憩時間に「〇〇くんの様子がこうだった」「〇〇ちゃんにはこういう思いがあったのかも」と子どもの様子を伝えあう。そうすると、なにか問題や課題が生じたとき、聞いていた保育士はアドバイスをしやすくなります。さらに、そうしたやりとりの中から「保育を改善していこう」という機運が生じてくるかもしれません。
最初は難しい話じゃなくていい。「〇〇くんがこんな笑えるようなことをしていた」とか「あのときの〇〇ちゃん、可愛かったね」とか、そういう話題から始めればいいんです。

園によって保育方針は様々です。仏教系もキリスト教系もあります。保育士の皆さんは、子どもたちの幸せをいちばんに考え、一生懸命保育しようと頑張っています。活動を通じ、この園のやり方が正しくて、こっちの園は間違っている、と感じたことはありません。

ただ、よりよい保育を目指すには、やはり保育士同士のコミュニケーションが大事だと思います。実際、私も現役保育士のとき、担任同士の関係がいいと、「ここお願い」「ちょっと見ててね」といった一言を言いやすかった覚えがあります。
良好なコミュニケーションは、保育の質も職場の雰囲気もよくしていく、と感じています。

4.今後、保育に取り入れていった方がよいもの

保育のなかで、今度、どのようなことを取り入れていけばいいとお考えでしょうか?

僕はあそびうた作家ですので、その立場からお答えしますね。
あそびうたと一言で言っても、手遊び、体操、まねっこあそび……と幅広いんです。
ダンスなど音にあわせたふりつけがあるものや、まねっこ遊びは、体の発達にいい影響を与えると思います。

また、音楽にあわせて大人と子ども、子ども同士がスキンシップやコミュニケーションをとるふれあい遊びは、0~2歳児で行われることが多いと思います。ただ、あそびうたの中にもふれあい遊びの要素を含んだものがあります。

3~5歳児になると、ふれあい遊びをする時間がなかったり、ふれあうことを恥ずかしがったりする子どもも出てきます。一方で、スキンシップをともなうコミュニケーションに嬉しそうな表情を見せる子どももいます。大きな子どもとも、ふれあい遊びのようなあそびうたを楽しんでいただけたら、と思っています。

子どもたちは「同じもの」や「繰り返し」に安心感や楽しみを感じます。そうしたなかに少しずつ「新しいもの」をとりこんでいくのがいいのではないでしょうか。

新しい試みと言えば、僕は最近、あそびうたの前に「音を聴いてみよう」と子どもたちに投げかけることがあります。スライドホイッスルというリコーダーのような形をした音階を変えられる笛があり、それを吹いてみせるんです。簡単に吹けるし、面白い音がするのでお勧めです。

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年齢によって反応は様々で、この前やったときには、年少さんは「ぎゃはは」と笑いだしました。へんてこな音だと感じたのでしょう。年中さんは「あれ、救急車?」と音からイメージするものを伝えてくれました。年長さんは「それで、ここからなにが始まるの?」と見通しを持った聴き方をしてくれたんです。

その後、「じゃあ、びゅーんという音でしゃがもう」「びゅーん、びゅーんという音がしたらどうする?」といった問いかけをしてみました。わずかな言葉を添えることで、子どもたちは音を聴いて考え、動き始める。遊びが広がっていきました。
こうした取り組みを通じ、子どもたちが音や音楽をより楽しめるようになるのではないかと思っています。

ソングブックカフェのHPです!↓

https://www.songbookcafe.com/

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