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朝日新聞厚生文化事業団トップページ 最新のお知らせ 連載インタビュー 「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~ 第5回:野上美希さん(前編)

最新のお知らせ

連載インタビュー
「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~
第5回:野上美希さん(前編)

文:勝見文子 編集協力:河井健

【保育をめぐる状況】

近年、入りたくても保育園に入れない待機児童の解消を求める声が高まった結果、保育施設は増えましたが、保育士不足と言われる状態になっています。また、現場で虐待など『不適切な保育』が相次ぎ、社会問題化し、『保育の質』をいかに担保していくかも課題とされています。

保育現場からは『人手が足りない』『国の配置基準を変えてほしい』などといった声があがっていますが、基準はほとんど変わらない状況です(※4~5 歳児は2024年度から経過措置を設けた上で 30:1から25:1に変更。1歳児でも改善の兆しはある)。また、賃金の面では、22年2月から月額平均9000円程度アップしましたが、大きな改善とは言えません。

保育についてこのような状況があることをふまえ、保育園の経営で先進的な取り組みを行っている野上さんに、今回インタビューを実施しました。

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野上 美希 (のがみ みき)さん
社会福祉法人風の森 統括、学校法人野上学園 主事、株式会社野上アカデミー 代表取締役、一般社団法人キッズコンサルタント協会 代表理事

シンクタンク、人材会社にて人材紹介事業の立ち上げに従事した後、自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わる。成長著しい時期である0歳~9歳(シングルエイジ期)においての一貫した教育を提唱し、子育てひろばや学童保育、社会福祉法人風の森を立ち上げ、6つの認可保育園を開設。現在は児童発達支援、病児保育、一時預かり等の多機能化も実現。保育者の働き方改革を業界に先駆け10年前より実践し、全園で国基準の 2 倍以上の保育士確保を実現。採用難の業界の中、中途採用倍率14倍の厳選採用を実現している。

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目次

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1. 働き方改革のきっかけと保育士の変化

野上さんの保育園では「0歳児3人に保育士1人」などとする国の基準の2倍以上の保育士を配置していると伺いました。きっかけは何でしょう?

元々、夫の実家が東京・杉並区で幼稚園を営んでいました。私は妊娠を機に勤務先を辞め、幼稚園の経営に関わるようになったのです。今から10年余り前のことでした。

その頃、区内では保育園の増設を自治体に求める母親たちの「保育園一揆」が起きていました。全国的に「待機児童問題」が注目を集めるようになったきっかけの一つです。区からも「保育事業に参入してもらえないか」という話があり、2013年に社会福祉法人風の森を立ち上げ、保育園をスタートさせました。

開園当初は国の基準を少し上回る程度の配置をしましたが、保育士はなかなか休憩が取れず、事務仕事にどうしても追われて残業が発生してしまう。「これでは持続可能な保育園運営はできない。もっと現場の働きやすさを考えないと」。そう感じ、2年目から働き方改革に着手したんです。

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それで2倍以上の配置にしたのですか?

最初は1.5倍程度でした。年齢ごとの保育室に配置する保育士を増やし、それで、保育自体はゆったりとしました。でも、「働きやすさ」にはつながらなかったのです。そこで、増やした人材を事務時間や有休、休憩時間の確保に充てることで「働きやすさ」は改善されました。

ただ、保育士にとっての働きがいは、有休や休憩が取れ、残業が少ないということだけではありません。「やりがい」が大切なんだと気づかされました。具体的には、研修や保育士同士の話し合いなどを通じ、「保育を深めていく」ということです。当時の園は「働きやすいけどやりがいがない」状態になっていました。

改善するため、さらに人員を増やし、あわせて、カフェ風の休憩室を設けたり、ICT(情報通信技術)機器の導入によって現場の事務作業を減らしたりしていきました。風の森は現在、六つの保育園を運営していますが、本部がなるべく事務作業を吸い上げています。それにより働きがいのある組織に生まれ変わりました。

保育士は子どもの命を預かっています。精神的にも肉体的にも負荷がかかる。仕事としっかり切り離された場所で休憩することは重要なんです。

様々な世代の保育士が、休憩室で、例えば「推し」の話をする。そうしたことを通じ、コミュニケーションが深まる効果もありました。

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休憩時間(カフェ風休憩室で)
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ICT機器の利用
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パソコンを使う保育士
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2. 子どもの変化

保育士からはどんな声が上がりましたか? また、子どもたちにも変化が表われたでしょうか?

「保育が楽しくなった」と話してくれる保育士が多いですね。特に転職者からは「以前は子どもの安全や目の前のことばかり考えていたが、今は、園児の成長を見据え、子どもを真ん中においた保育ができている」といった声を聞きます。

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子どもの主体性や意欲を育み、自己肯定感を高め、成長や自立を促す保育ができていると自認しています。

野上さんが経営する風の森のHPです!↓

社会福祉法人 風の森 Picoナーサリ

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野上美希さんのインタビュー記事【後編】はこちら