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連載インタビュー
「保育の質」を考える~子どもにとって、より良い保育のために~
第4回:小崎恭弘さん(前編)
文:勝見文子 編集協力:河井健
小崎 恭弘 (こざき やすひろ)さん
大阪教育大学健康安全教育系教育学部教員養成課程家政教育部門 教授
(元)大阪教育大学附属天王寺小学校長
兵庫県西宮市初の男性保育士として施設・保育所に12年勤務。3人の男の子それぞれに育児休暇を取得。それらの体験を持ち、「父親の育児支援」研究を始める。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌等にて積極的に発信を行う。父親の育児、ワークライフバランス、子育て支援、保育研修等で、全国で年間60本程度講演会等を行う。これまで2000回の講演実績を持つ。NHKすくすく子育て、視点・論点、助けて!きわめびと、ビビット等出演。朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、神戸新聞等でそれぞれに連載を持つ。父親の育児を支援する団体のNPO法人ファザーリング・ジャパンの顧問を務めている。
目次
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1. 不適切な保育
- 近年、不適切な保育について、「保育の専門家である保育士が、どうしてこうした問題を起こしてしまったのか」という視点で報じられています。なぜでしょう?
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昨今の不適切な保育
2022年に静岡県裾野市の保育園で、1歳児を虐待したとして当時の保育士3人が暴行容疑で逮捕された。国が保育施設の全国調査を実施し、同年4~12月だけで1316件の「不適切な保育」(うち「虐待」122件)が確認されている。
良くないことですが、不適切な保育そのものは昔からありました。それでも、現在のような報じられ方はしなかったと思います。2022年の静岡県の事件に関する報道は、すごくセンセーショナルでした。3人の保育士(当時)が突然逮捕され、名前や写真も伝えられた。なぜあのように報じられたのか、考える必要があると思います。
- 社会に変化があったのでしょうか?
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2020年からのコロナ禍がきっかけだと思います。コロナの流行期に、医療従事者があれほど活動できた理由の一つは、保育施設がいちはやく稼働していたからです。医師や看護師らが働ける環境を、保育の現場が支えていました。
保育はガスや電気、水道などと同じ、社会のインフラであるという認識が広がりました。結果として保育の社会的価値が向上し、その分、社会の視線が厳しくなったのだと考えています。
2. 不適切な保育が起こる要因
- そもそも、なぜ不適切な保育が起きてしまうのでしょうか?
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保育施設の問題と、保育士の問題という二つの視点で考える必要があります。
私も保育士だった経験がありますが、閉鎖的な空間では、本当は子どもを最優先すべきなのに、保育士同士の人間関係がそれに勝ってしまうケースが起こり得るんです。例えば若い保育士が、「こういう保育はおかしいのではないか」と感じることがあったとしても、年上や経験のある保育士には指摘しにくい。
また、とりわけ施設が少ない地域で目立ちますが、保育士の異動がないため、人間関係が固定され、組織が硬直化してしまうということがあります。
- 不適切な保育があった施設では、保育士個人の意識だけでなく、職場環境などにも課題がある、ということですね?
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そうです。不適切な保育は複合的な要因で起こります。保育士だけの問題として語ってしまうのは危うい。
仮に保育士の意識が低かったとしても、組織がしっかりしていれば防げるし、その逆もあり得ます。
- となると、園長ら管理者には、組織が抱える問題と、組織で働く保育士の両方を上手にマネジメントしていく力が求められそうです。保育の専門性を担保し、高めていくための鍵は何でしょうか?
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最も大事なものは「人権」と「倫理」に対する意識です。この両者を基盤とし、養護と教育が一体になった専門的な活動こそが保育なのです。
子どもには大人と対等な人権があります。
また、「弱き幼きもの」である子どもに対しては、「絶対にすべきこと」「絶対にしてはならないこと」が存在します。これをきちんと認識し、実践するのが保育士の倫理です。
人権と倫理について、保育士個人がしっかり理解することは欠かせませんし、組織マネジメントもこの視点で行われる必要があります。
小崎先生の研究室のHPです!↓
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