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事業のご報告

東日本大震災5年
「キャンプホクレレ in HAWAII」グリーフキャンプを実施(ハワイ)

震災で大切な人を亡くした子どもたちが、自分の内面にあるグリーフ(喪失・悲嘆)に向き合うことに寄り添い、見守り続ける子どもへのグリーフ事業の一環として、東日本大震災から5年を迎えた2016年3月、米国ハワイ州で4泊5日(3月25日~29日、現地3泊4日)のキャンプを実施しました。

「流れ星に願いを」

参加したのは、震災で親や兄弟・姉妹を亡くした小学3年生から高校3年生の44人。5~7人でグループを作り、盛岡、一ノ関、仙台、上野の各地の集合場所からハワイでのキャンプを通して生活を共にしました。

「ホクレレ」はハワイの言葉で「流れ星」を意味します。震災で壮絶な体験をし、大切な人を失ってグリーフを抱えながら生きる子どもたちの願いが、このキャンプを通して少しでも叶うようにと、「流れ星に願いを」の思いにちなんで名付けました。

現地ではグリーフケアの拠点キッズ・ハート・トゥー・ハワイの全面的な協力のもと、ハワイの大自然の中、海でスタンドアップパドル(サーフボードの上に立って乗り、パドルで海をこぐスポーツ)やカヌー、シュノーケリングで遊んだり、ハワイの伝統的なコトバや文化、日本のコマ回しとそっくり同じあそび、それにウクレレ、フラダンスなどの芸術にふれたり、同じく親などの大切な人を失った現地ハワイの子どもたちと交流したり、日本ではできない盛りだくさんのプログラムを経験しました。

特に震災の影響によるさまざまな理由で海から遠ざかっていた子どもたちは、ハワイの青い空の下、透き通った海で大きな歓声とともにおおはしゃぎ。震災以来5年たって「初めて海に入った」という子どもたちがほとんどでした。中には、あえて水着を持ってこなかった女子が、気付けば服ごと海に入り、グループのみんなとともに白い波に遊ぶ姿も見られました。

「キャンプホクレレ」とグリーフ

このキャンプの目的は、ハワイで楽しく遊ぶことだけではありません。「参加している子どもみんなが震災で大切な人を亡くした共通の経験を持つ」という環境(文脈)を子ども一人ひとりが理解(認識)したうえで、自分の中にあるグリーフに気づき、向き合うことが目的です。

その環境は、正しく設定することによって、「あそび」そのものが彼ら彼女らにとっての大切なグリーフの時間となります。また、子どもたちにとって安全と思え、安心できる仲間や大人に囲まれて過ごすことによって、はじめて自分自身のグリーフに向き合うことができます。

「トーキングタイム」と名付けたグリーフワークの時間では、ハワイ在住のグリーフを抱える子どもたちも交えて、生活を共にするグループごとに、大切な人を亡くした時の気持ちや、その人との思い出などを話しました。そのときのことを思い出し、涙する子もいました。その話を聞きながら、自らの体験を思い起こし、ずっと胸に秘めてきた思いを初めて他の人に語るという子どももいました。

グリーフは、「語ること」が目的ではありません。ただ自分の内面にある喪失の悲しみや寂しさ、怒りを含めたすべての感情(グリーフ)を、学校の友人や家の家族、そのほかの場所で誰にも言えず、あるいはその感情に気づくことなく胸の奥に秘めている子どもたちはたくさんいます。もしかすると、ほとんど大多数の子どもたちが、自分の寂しさや悲しい気持ちを誰にも言えずにいるかもしれません。その子どもたちにとって、自分のグリーフに向き合い、理解することは、これから自分の人生を生きていく上で大きな「力」、「強さ」、「自信」となります。

子どもへのグリーフワークの経験を積んだ現地ハワイと日本から同行した専門家スタッフが寄り添う中、「話したくないことはパスをしてもいい(言わなくてもいい)」「ここで聞いた話は外では話さない」などの子どもたちにとっての安全なルールを設けることによって、「トーキングタイム」は、安心して自分自身のグリーフと向き合うことのできる貴重な機会となりました。

「同じ境遇の仲間と話せてこれから頑張れる気がした」「この体験を忘れないで人との関わりを大切にしていきたい」「学校や家では震災の話はしないけど、ここでは言ってもいいんだという安心感があった」など、キャンプを通して、グループの仲間とそれぞれの経験や想いを共有できたことへの喜びの声を、多くの子どもたちから聞くことができました。

ハワイの人のたくさんの思い

日本からの子どもたちをあたたかく迎え入れ、優しく包んでくれたハワイの海、空、太陽、風、木々、そして大地といった自然。もちろん、ハワイの多くの人たちが心から歓迎をしてくれました。

そのハワイ受け入れの中心となり、現地受け入れのための準備に奔走し、さらに子どものグリーフに関する長年の経験に裏打ちされた理論と実践によって精神的な支柱となってくださったのがキッズ・ハート・トゥー・ハワイ代表のシンシア・ホワイトさんと伊藤ヒロさんです。

東日本大震災の後すぐに被災地に入り、各地で子どもだけでなくさまざまな人にグリーフワークを実施していたお2人に出会って以来3年間、私たちはいつの日か震災で大切な人を亡くした子どもたちをハワイに連れて行くだけでなく、グリーフを目的としたキャンプの実現を目標のひとつに、当事業団主催で東北沿岸の各地でグリーフの活動を継続してきました。震災から5年を経たこのタイミングでこの大切な機会が持てたことは、これまでの事業の積み重ねと、その間に築かれたキッズ・ハート・トゥー・ハワイならびに代表のお二人との信頼関係抜きには語れません。

そして、日本の子どもたちとともに3泊4日を過ごしたハワイの子どもたちをはじめ、ボランティアで参加したキッズ・ハート・トゥー・ハワイのファシリテーター、子どもたちの日本語と英語の垣根をなくすために奮闘したハワイ在住の日本人スタッフ、安全でとびきり楽しいプログラムを準備し提供してくれたサーフィンの世界チャンピオンを含む海に関わるプロ集団「ナカマカイ(ハワイのコトバで「海の子どもたち」の意)」の人たち、素晴らしい演奏を聴かせてくれたプロのウクレレミュージシャン、フラダンス教師など、キャンプ中に協力をしてくださった人たちのほか、海でのランチを提供してくれたり、キャンプに必要なさまざまな物品を提供してくれたり、そのための経費を寄付してくださったりした方々を含めると、100人を超えるハワイの人たちの、たくさんの思いが詰まったキャンプだったのです。

少しでも多くの子どものグリーフに寄り添う

このキャンプホクレレは、各県や市、同各教育委員会などの協力を得て参加者を募ったところ、30人の定員に対して124人の申し込みがありました。その中から年齢(学年)や地域、申し込み時に「流れ星への願い」と題して書いていただいた作文をもとに44人を選び、やむなく他はお断りすることとなりました。今回お断りせざるをえなかった子どもや一人でグリーフを抱えている子どものために、これからも子どもたちのグリーフに寄り添うさまざまな取り組みを続けていきます。忘れてならないのは、今回ハワイに行くことのできた子どもたちの他に、もっとたくさんの子どもたちが、それぞれのグリーフを抱えながら震災後の5年を過ごしてきたという事実です。私たち大人は、そのことにしっかりと目を向ける必要があります。

帰国して1ヵ月後の16年4月には、一連のグリーフワーク(キャンプホクレレ)の区切りとして思い出会を開催します。ともにキャンプを過ごした仲間とともに自分の体験したことの整理と、これから歩むための一歩を参加した子どもたち同士で探る作業を行う予定です。

キャンプから帰って数日、参加した子どもから文章が届きました。

「ハワイで、みんなと仲良くなって一緒に遊んだりすることのうれしさや、自分と同じ経験をした子どもたちと気持ちを共有する大切さを知りました」。
「私がホクレレキャンプから帰ってきて新しくできた願い事は、キャンプのメンバー、ハワイのスタッフや子どもたちに、また会うことです」。

この「キャンプホクレレ」については報告書に詳しくまとめ、みなさまのご寄付とご理解によって東日本大震災後5年を経て実現した「グリーフキャンプ」の記録としてとどめる予定です。

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