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これまでの活動

講演会「当事者のライフステージにあった生活・就労・住まい」(東京)

穴澤啓太さんをどう支えたのかを報告する
「チーム穴澤」のみなさん。

高次脳機能障害の人たちの生活や就労をテーマにした講演会「当事者のライフステージにあった生活・就労・住まい」を9月5日(土)、東京都中央区の浜離宮朝日小ホールで開催しました。高次脳機能障害の当事者をはじめとして、作業療法士や言語聴覚士といった福祉や介護の関係者なども含め、計269人が参加しました。

最初の講演「当事者のライフステージに合った支援」では、東京慈恵会医科大学附属第三病院・リハビリテーション科診療部長の渡邉修さんによる、高次脳機能障害に関する基礎的な解説が行われました。高次脳機能障害となる主な原因疾患は、脳卒中や頭部外傷、脳腫瘍、低酸素症などで、このうちもっとも多いのが脳卒中。特に、その7割が脳の血管が詰まる脳梗塞によるものだそうです。都内には約5万人、日本全国では50万人の患者がいるとみられています。

小児における高次脳機能障害の特徴としては、大脳の発達期にあるため、症状が遅れて出たり、健康な周りの友人たちの成長に追いつけず学力差が生まれたり、いじめの対象になりやすいといった問題があります。支援者は「本人が納得できる具体的課題に取り組ませる」、「いや事はさせない」、「うまくできたら褒める」といったことに配慮する必要があると指摘しました。

続く対談は、国立研究開発法人国立成育医療研究センターリハビリテーション科医長の橋本圭司さんと、同センターで働く堀間真さんの二人で行われました。堀間さんは14年前、26歳の時に友人の車に同乗していて交通事故に遭い、高次脳機能障害となった当事者です。今年2月に障害者枠で同センターに採用をされ、リハビリ室の受付として働いています。障害のため周りの人の名前がなかなか覚えられず、「いつも半袖の人」などという形で判断をしながら仕事をこなしているそうですが、性格が明るくユーモアがあるため、周囲からは「笑顔がステキ」と言われ、センターの職員たちからも親しまれているそうです。

後半のシンポジウム「当事者(少年期)の地域での包括的支援」は橋本医師が司会を行い、12歳の時に木から落ちて高次脳障害となった穴澤啓太さん(現・NPO法人翔和学園大学生)を、周囲の人々がいままでどのように支えて来たのか、その実体験を、母親の穴澤芳子さん、東京都心身障害者福祉センターの大塚祐子さん、足立区しょう害福祉センターあしすとの宮尻京子さん、東京都立城北特別支援学校主幹教諭の林田麻理子さんの皆さんが、おのおのの立場から紹介をしました。

啓太さんは、木から落ちた後3週間に渡って意識不明の状態が続き、一命はとりとめたものの、それから5年間ほどは、マンガなどで読んだ話などと自分の実体験がゴチャゴチャになってしまい、「人を殺しました」と言って警察に出頭してみたり、川に飛び込んだり、二階から飛び降りたりと、作話、妄想、徘徊などの症状が出ました。

お母さんも支援学校も、どう対処したらいいのか困惑しましたが、橋本医師とつながったことで高次脳機能障害としての対応ができるようになりました。中3年以降は、保護者や学校をはじめとして、都心障センターや福祉センター、児童相談所などに地元の警察までが入った、「チーム穴沢」と呼ばれた「関係者会議」を開けるようになり、地域のみんなで啓太くんを支える態勢が確立されました。

啓太くんの場合、学校が長期の休みになると問題行動を起こすという事が分かったため、学校が休みの間は児童デイケア施設に通ってもらい、訪れる子どもたちと一緒に遊ぶなどして、子どもたちを支援する側に回ってもらうことにより、休み中も問題なく過ごせるようになりました。

シンポジウムの最後に啓太くん本人も登壇し、いまは、ギターを弾いたり中国拳法を学んだりしているといい、自分がここまでよくなれたのも「お父さんやお母さん、そして支援者のおかげ。学校を卒業後は、とにかく働きたい」と述べ、会場からは拍手がわきました。