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事業のご報告

研修会「社会的養護のピアサポートグループで最も大切なこと~グリーフケアの視点から~」を開催

アメリカハワイ州にあるNPO法人「キッズハートツーハワイ」では、米国のフォスターケアで育ったシンシア・ホワイトさんと日本の児童養護施設で育った伊藤ヒロさんが、大切な人と暮らせない、大切な人に虐げられるなど、かけがえのない人との関係を失った人へのグリーフ、トラウマサポートを行い、高い評価を受けています。

このシンシアさんとヒロさんを講師に、日本で社会的養護の当事者団体で活動する人を対象にしたリーダーズトレーニング「社会的養護のピアサポートグループで最も大切なこと~グリーフケアの視点から~」を、11月23日(土)、24日(日)に東京都中央区の朝日新聞東京本社で開催(社会的養護の当事者グループ全国ネットワークこどもっと、朝日新聞厚生文化事業団主催)。日本国内の8つの当事者団体で中心となって活動する人など12人が参加しました。

まずはトラウマの手当を

参加者一人ひとりが自己紹介をした後、シンシアさんは「トラウマを抱えている人が、安心や安全を感じ、そのトラウマが癒されなければ、グリーフに取り組むことはできません」と説明。まずはトラウマを理解することが社会的養護のピアサポートで不可欠だと整理しました。

子どもの声が社会を変える

シンシアさんは、トラウマの具体的な解説に入る前に、社会的養護の当事者活動の意義として、「いま、そこにいる子どもたちが意見を言うことや自分の生い立ちを語ることによって、社会福祉を変えていくことができると思っています」とキッズハートツーハワイの姿勢を紹介。

そして、当事者の声が制度を変えた一例として、2015年7月から、ハワイ州でフォスターケアの対象が18歳までから21歳までに延長されることを挙げ、「これまでフォスターケアの子どもたちは、18歳になるとホームを離れなくてはなりませんでした。ホームレスになったり、友達の家を点々としたりする子どももいました」と困難な状況に置かれる子どもたちの実態を語りました。

そのうえで、「みなさんは、日本のシステムを変えていく実践者になれます。どこを変えるべきか、どこを変えてはいけないのかを、みなさんは知っているからです」と話し、「みなさんの声は力です」とエールを送りました。

トラウマによる影響

次いで、トラウマの具体的な説明が始まりました。まず、生命が脅やかされたり、脅かされるような恐怖を本人が感じたりすることで引き起こされるというトラウマの原因やそれによって起こる脳の機能の変化を解説し、トラウマ症状のある人には専門的な治療が必要なことを指摘しました。

一方で、グリーフは「喪失への健全な反応」であり、「変化への反応」であるとし、「グリーフの反応へのサポートにはセラピーなどの治療は必要ありません。一番良いサポートはつながりを継続していくことです」と、その違いを明確に示しました。

また、トラウマを抱えた人の特徴的な症状を細かく解説。その中の一つ自己嫌悪感については、自身の生い立ちを振り返りながら、「自己嫌悪する自分は、自分の一部ではあります。しかし、それが自分のすべてではない、ということを理解できるようにしていくのが望ましい」と話し、苦手なことに着目するのではなく、得意なことや強みに焦点を当てたサポートの意義を強調しました。さらに、トラウマのために人との関係の中で「戦うか、逃げるか、固まるか」の行動をとってしまいがちになることや過剰反応、フラッシュバックについても詳しく述べました。

信頼されるに足る支援者に

「トラウマのために、ある人が『自分にとって安全である』のか、『そうでない』のかを見極める能力が劣ってしまうことがある」ことにも触れ、そうした人や虐待や遺棄などのために人を信頼することが困難な子どもたちに対し、「私たちは、支援者を信頼できるように変わって欲しいと求めることはありません」とし、ありのままに子どもを尊重し、「支援者が信頼されるに足る人になることが大切です。そのうえで、信頼するかどうかは、子ども自身が選択することです」と、傷ついた子どもたちと支援者との望ましい関係を説きました。

ピアサポートの強み

「同様の経験をしている」というピアサポートの強みの視点から、当事者によるグループ運営についても解説をしました。

グループの中で当事者活動をする人が自分の喪失体験などを語ることによって「あなたに起こったことは、話をしても大丈夫なんだと子どもに伝えることができます。また、支援をする私もあなたと対等であり、同じ立場だと知ってもらうこともできます」と話し、「例えば子どもが誰かを亡くしているなら、『私も亡くしたよ』と短く語り、子どもが話しやすい状況を作ります」とアドバイスしました。

ヒロさんは、「サポートする側が子どもよりも自分の話を多くしてしまうような場合は、その人自身へのケアが必要な場合もある」と支援者が自分自身の状態に気づかなければいけないことを説明。さらに、話したくない子どもに話さなくてもよいという「I pass(アイパス)ルール」の必要性も語りました。

社会的養護で暮らした子どもの文化・共通性

シンシアさんは、「日本の社会的養護で暮らした子どもたちに共通してみられる “文化”にはどんなものがありますか」と投げかけ、「すぐにあきらめてしまうことがある」「依存しやすい」「家庭像を描けない」「上手く人に頼れない」などを参加者が挙げました。

それを受けてシンシアさんは、「当事者の人たちにとってそれは普通のことであるのに、同じように施設で育った人と出会い、話し合うことがなければ、自分一人の問題として抱え込まなければいけない。みなさんが当事者として自分を語ることで『こうした特徴は異常なものではない』という安心感や癒しを子どもたちに与えることができます」と話しました。

子どもが経験した変化に着目

親が離婚した子どもの方が、親が亡くなった子どもよりも大きな問題を抱えることが多いという研究を紹介。それが子どもの経験する「変化」によるものだとし、「例えば、親の1人が亡くなった場合は、その後も同じ家で暮らし、同じ学校に通うことが多い。しかし、親が離婚すると、より多くの変化を経験する場合があります。両親の間を行ったり来たりすることもあります。引っ越しをすることになって家や学校、友達が変わることも少なくありません。児童養護施設に入った子どもたちは、それまでに多くの変化を経て、施設入所に至っています」と、社会的養護の子どもが困難を背負うことになる背景を、「変化」の視点から説明しました。

実践的ワークショップ

2日間を通して、さまざまなワークショップも行われました。参加者が自分自身の生い立ちを振り返るもの、子どもの話を寄り添って聴くためのもの、自分の感情の変化やグリーフに気づくためのトレーニング、グループのコーディネートのトレーニングなどを実践的に学びました。

質疑の時間も充実

質疑の時間では活発な意見交換がされました。以下はその一部(要旨)です。

質問:『性的な虐待を受けた人や異性を支援する場合、特に気をつけることは』

回答:性的虐待を受けてきた子どもは、本来あるべき人との境界が大切にされなかったと言えます。支援者は、子どもとの間にあるべき境界を尊重し、それを子どもに説明していくことが必要です。

質問:『サポートする人が精神的に辛くなってしまうことを防ぐにはどうしたら良いか』

回答:トラウマやグリーフを抱えた子どもと向き合うと、支援者自身が心を揺さぶられるのは珍しいことではありません。支援者が自身をケアするために、スタッフ同士で感じたこと、気づいたことをシェアする必要があります。キッズハートツーでは、子どものプログラムの前後にスタッフのために1時間ずつのプログラムを行っています。専門的なトレーニングを受けていないスタッフには、特に丁寧な関わりが必要です。

質問:『子どもが特定の支援者に依存してしまう場合の対応は』

回答:子どもがキッズハートツーのスタッフ個人に頼るのではなく、キッズハートツーという組織に頼ってもらえるようにしています。また、参加者同士が互いに頼り合えるようにも取り組んでいます。

本来あるべきなのは、子どもたちがコミュニティーに依存し、様々な人からのサポートを受けられることだとも考えています。

研修を終えて

社会的養護の当事者グループ全国ネットワーク「こどもっと」は、今後も社会的養護の当事者団体間の連携を含め、当事者活動を活性化し、困難な状況に置かれる子どもたちの声を社会に届けるための取り組みを進めていきます。

研修会への参加団体

とちぎユースアフターケア事業協同組合だいじ家 栃木県
NPO法人ふたばふらっとホーム 東京都
さくらネットワークプロジェクト 東京都
ひ・まわり 静岡県
社会的養護の当事者参加民間グループこもれび 千葉県
NPO法人社会的養護の当事者推進団体なごやかサポートみらい 名古屋市
レインボーズ 鳥取県
COLORS 広島県

主催/社会的養護の当事者グループ全国ネットワークこどもっと、朝日新聞厚生文化事業団

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