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これまでの活動

社会的養護の理解を深めるセミナー「あのときありがとう」報告

2025年6月28日(土)に、名古屋市の子ども第三の居場所「えがおの架け橋」を会場として、社会的養護に関するセミナー「あのときありがとう~社会的養護への偏見をなくしたい~」(NPO法人なごやかサポートみらいが主催、ぴあ応援団ふぇすチーム、朝日新聞厚生文化事業団協力)を開催しました。

本セミナーは、社会的養護の経験を持つ学生8名が中心となって企画・運営を行い、児童養護施設職員や里親、養育関係者、子どもなど23名が参加しました。

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講演会の背景と目的

近年、児童養護施設や里親家庭などの社会的養護の存在が知られるようになってきました。しかし、「そこで暮らすのはかわいそうな子」といった偏ったイメージを持たれることが、今でも珍しくありません。このような現状を背景に、本セミナーは、社会的養護の経験を持つ「当事者」であるぴあ応援団のメンバーが、自らの思いを多くの方に知っていただき、社会的養護に対する理解を広めることを目的として実施しました。

プログラム概要

セミナーは、総合進行を務めるぴあ応援団のあやのさん(社会福祉学専攻・大学2年生)による挨拶からはじまり、以下の通り進行しました。

ぴあ応援団の活動紹介

ゆきあさん(栄養学専攻・大学3年生)が、団体活動の紹介を行いました。ぴあ応援団は、社会的養護を経験した学生や若者によるボランティア団体で、全国に約60名のメンバーが活動しています。活動は、「心の拠り所」「支援の輪」「経験の活用」という3つのビジョンに基づいています。講演会や冊子「ぴあ応援ブック」の作成・配布、YouTubeの「ぴあ応援ラジオ」などを通じてメンバー自身の体験談や実践的な情報の発信、全国の給付型奨学金を検索できるウェブサイト「Miomus」の運営など多岐にわたる活動を行っています。ぴあミーティングなどの総会を通じて対面での交流も定期的に行い、同じ経験を持つ若者同士が安心してつながれる場も提供しています。

グループワークA「社会的養護で暮らす子どもたちのイメージ」

参加者の皆さんとぴあ応援団メンバーが4つのグループに分かれ、「社会的養護で暮らす子どもたちのイメージ」をテーマに話し合いました。グループワークでは、「かわいそうな子」「一般の家庭とは違う」といった偏見のイメージがある一方で、「施設は安全な場所」というポジティブなイメージも出されました。また、参加者からは、当事者のリアルな経験や社会的養護に関わる課題についての意見が多く聞かれました。

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パネルディスカッション「支援の現場と経験者から見る支援と自立」

パネルディスカッションでは、よしやすさん(地球環境科学専攻・大学3年生)、りんさん(情報工学科専攻・大学3年生)、あきらさん(畜産科・大学2年生)、めいさん(外国語専攻・大学1年生)の4名と、社会的養護の専門家である藤田哲也先生(岐阜聖徳学園大学短期大学准教授、元児童養護施設職員)とで、当事者の視点と支援者の視点から意見交換を行いました。司会はせいやさん(社会科学専攻・大学2年生)が務め、「今だから言える本当は苦しかったこと」と「嬉しかった支援」を中心テーマに進行しました。

苦しかったこととして挙げられた経験

  • 親から否定され続けた言葉。常に怒られないか、嫌われないかを考えて自分の気持ちを押し殺して生きてきた。
  • 学校生活において、友人との連絡手段や外出の自由度に差を感じ、孤立感を抱いた。
  • 大学進学を希望するも、高校での塾費用や大学費用を自分で賄う経済的困難に直面し、多額の借金への不安から進学を諦めかけた。
  • 施設独自の門限が厳しく、友人との関係を維持するために嘘をつかざるを得なかったり、周囲から「ノリが悪い」と見られたりすることで、友達関係が崩れることが心配だった。門限の理由について職員に尋ねると「(遅い時間は)危険だから」と言われるも、説明に一貫性がなかった。
  • 自立援助ホームでは門限は比較的緩いものの、外泊や訪問の手続きが煩雑であることや、門限を過ぎると閉め出されるといった厳しいルールがあった。

嬉しかった支援として挙げられた経験

  • コロナ禍中に、里親が自立に向けて料理などの練習を自ら提案してくれた。
  • 退所した施設が毎年同窓会の場を設けてくれ、「いつでも帰ってきていい」という安心感を与えてくれた。
  • 学校の先生や地域のボランティアの方が、目を見て話を遮らずに聞いてくれ、「あなた悪くないよ」「大丈夫だよ」と、温かい言葉で励ましてくれた。
  • 自立援助ホームが、バンド活動や絵を描くなどの自己表現の場を提供してくれた。
  • 何かしたいときに周囲の大人が全力で協力し、ネットワークを活用してくれた。
  • 職員が大学進学にあたり給付型奨学金を見つけてくれ、多額の借金をせずに済んだ。
  • 特に、担当の職員が他の職員の反対にもかかわらず、親身になって寄り添い、奨学金取得に向けて共に努力してくれた。
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パネルディスカッションの中では、社会的養護における支援制度は充実している面もある一方で、職員が既存の制度や情報について十分に把握していないために、子どもたちが支援を受けられないケースがあるという問題点が指摘されました。

また、パネリストからは、参加者の皆さんへ「伝えたい思い」が語られました。

  • 中高生には、論理だけでなく感情に寄り添うことが重要であり、彼ら彼女らが「頑張る理由」や「頑張った結果」を明確に伝え、夢を応援し、必要な情報を提供し、自立を促すことが大切。
  • 子どもたちは意外と我慢しがちで、不安を抱えているため、「大丈夫だよ」という温かい言葉が大きな力を持つ。
  • 社会的養護を経験した私たちは、その経験を活かして、一般家庭では得られない学びや強みを持つことができる。社会的養護で暮らすことはマイナスなことばかりではないことを知ってほしい。
  • 血縁が無くても、「寄り添う心」があれば、家族のような関係性になれる。

参加者の皆さんから、当事者の夢や、親との関係性、子どもたちへの支援のあり方など、多岐にわたるご質問をいただきました。

また特に一時保護の子どもたちが、施設内で孤立を感じたり、職員に本音を言いづらかったりするという現状が共有され、彼らが精神的に不安定な状況にあるからこそ、「そばにいて話を聞いく」といった寄り添う支援の重要性が強調されました。

グループワークB「パネルディスカッションを通しての変化、気づき」

最後に、参加者の皆さんとぴあ応援団メンバーが再度グループに分かれ、本日のセミナーを通して感じた変化や気づきを共有しました。参加者からは、「知識や理解が深まった」という声や、支援者側が「当事者の気持ちをより深く知ることの重要性」を実感したという意見がありました。また、大人から思いを伝え、情報を提供することと、子ども側も積極的にコミュニケーションを取ることで心を開いていくことの双方の重要性が挙げられました。さらに、自治体や施設による支援制度の格差をなくしたいという要望や、子どもが「やりたい」と言ったタイミングで大人が協力することの重要性も語られました。

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むすびに

終了後の参加者アンケートでは、

「当事者の方たちの声を直接聞けたことで、職員として頑張っていこうと思えました」
「貴重なお話をたくさん聞かせていただくことができました」
「自分にできることを行動に移していきたいです」
「頑張っている若者と会えました」

などの感想をいただきました。

これからも、「自分たちの経験を次代のために役立てたい」と行動する若者たちとともに、社会的養護への理解が一層深まり、支援の輪が広がることを願い、活動に取り組んでまいります。