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連載インタビュー
「障がい」ってなに?もっと身近に、聞いて、感じて、知ってみよう!
第2回 :片平考美さん(前編)
片平 考美 (かたひら ちかみ)さん
日本視覚障害者団体連合・青年協議会会長、静岡県立静岡視覚特別支援学校・小学部教諭
盲学校に通算13年勤務し、小学部を担当している。先天性のロービジョン当事者でもある。全国規模の当事者団体の青年部組織を取りまとめ、視覚障害青年の意見を集約し、社会でもっと活躍できる環境づくりのために理解啓発活動を行なっている。
目次
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1.かたひらさんは、どんな人?
- 片平さんのこと、教えてください。
-
私は、静岡県にある盲学校で小学校の先生をしています。盲学校とは、目が見えにくかったり、まったく見えなかったりといった、視覚に障害のある子どもが通う学校のことです。
私自身も視覚に障害があり、小学校1年生で左眼が全盲になり、右眼は無水晶体眼で、現在の視力は0.4です。盲学校の先生では、視覚に障害がある人は珍しいんですよ。
学校の先生のほかにも、視覚障害がある当事者団体の青年部を取りまとめる役割も担っています。
片平さんが勤める静岡県立静岡視覚特別支援学校のホームページはこちら
2.盲学校の先生に興味をもったきっかけ
- この仕事に興味をもったきっかけを教えてください。
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小学校5年生の時に地域の小学校から盲学校に転校した際、地域の学校ではさまざまな配慮を求める側だった自分が、盲学校では周りの友達に手助けできることがたくさんあるのでやりがいを感じ、盲学校の先生になることを決意して、今に至っています。
3.学校での1日、視覚障害者団体連合での役割
- 盲学校のこと、教えてください!
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朝の会から帰りの時間まで、大きくは地域の学校と変わりありません。
盲学校ならではのことでいえば、
- 点字の教科書は、教科書の背表紙に点字で科目名が書かれている(図工と生活科、書写をのぞく)
- 科目ごとに表紙の色、手触りが違う
- 見えにくいお子さん用には、拡大文字の教科書やタブレット端末で閲覧できる教科書が配布されている。
- 子どもたちがぶつかって転ばぬよう、廊下に何も置いていない
- 廊下では右側通行の徹底、立ち話をしない
といったことでしょうか。
- 休み時間の過ごし方は?
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- 缶蹴り(缶の中に鈴を入れて行う)、ケイドロ(警察と泥棒)など、鬼ごっこが人気(見えない子は、見えている友達や先生とペアになって逃げます)
- デイジー図書(内容を音声で読み上げる機能が付いた電子教科書)に収蔵されているお話をヘッドフォンで聴く
- 体育館のトランポリンで遊ぶ(その場で飛べるから安全で、運動量も確保できるため、盲学校ではよく使われる道具です)
などです。
- 給食時間
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- 給食は食堂へ食べに行きます
- トレーの上に小鉢、お茶碗、お椀など、決まった器に決まったものが入っていて、トレーへの配置位置も決まっています
- 食べ方のきれいさは世界各国で求められることなので、食事のマナーにも力を入れています
興味深いことに、最近の若い子はお魚をきれいに食べるのは苦手だけど、パフェ、ケーキをとても上手に食べるなど、時代が反映されていて興味深いです。
- 放課後の過ごし方
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5、6年生くらいからひとりで帰る子も。それまでに、授業や放課後の時間に白杖を使って歩いたり、電車やバスに乗って帰る練習をしたりします。盲学校は、だいたい県に1〜3校くらいしかないので、地域の小中学校のように徒歩だけでの通学はむずかしいです。
ひとりで帰れるようになるまでは、親御さんが1時間くらいかけて毎日車で送ってくれています。高学年になるまでには、電車やバスを利用して通学することを目指します。親御さんが共働きの家庭も増えてきているため、登下校の練習の機会をつくるのが難しくなってきています。また、現在は、放課後デイサービスを利用するご家庭も増えています。
- 通学の時に、同行してくれるボランティアさんは利用できないの?
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同行援護事業という、視覚障害のある人が安全に移動ができるような福祉制度を利用できる場合もあります。現在は、通勤・通学でその制度が使えるようにはなっていますが、静岡県ではまた対応可能な事業所がなく、実用化されていません。
もっと誰もが気軽に利用できるよう、ガイドヘルパーさんが増えたり、ヘルパーさんの賃金が向上したりすると良いなと思います。
見えない人の介助にはテクニックが必要で、人命にもかかわることなので、無償のボランティアには少し抵抗があります。視覚障害者の同行に必要なことを学ぶ研修を修了した人が増え、若い方もアルバイトとしてヘルパーを務めるなど、ヘルパーになってくれると良いなと思います。
- 授業が終わったあと、先生もすぐに家に帰っていいのですか。
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16:45までが勤務時間です。その日の授業が終わっても、職員会議があったり、明日の授業の準備をしたり、教材を作ったりしていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。
また、多種多様な研修があり、点字や歩行指導の研修といった盲学校教諭としての専門性を高めるもの、授業の進め方研修、子どもの評価についてといった、教師の指導力を高めるもの、人権、ICT、防災研修などの研修があります。
- 視覚障害者団体連合の青年協議会の会長としてのお仕事はどのようなものがありますか。
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土日に研修会を行うことがあるため、平日の夜にその準備をしています。
また、月に1回、「あつまれ、視覚障害青年の森」という音声のみでのSNSイベントを開催しており、恋愛、結婚、子育ての話、理想のトイレ、スポーツ観戦、就労など、回ごとのテーマに基づいた情報交換の場を設けています。
さらに、1年に1回、毎年9月頃に全国大会があり、国に団体としての希望を伝える陳情内容を決めています。大会の主催となる都道府県とのやりとりや、参加者募集の広報、登壇してもらう講師とのやりとりといった準備をしています。
4.「ともに学ぶ」ために思うこと
- 障害をはじめとした、あらゆる背景をもつ子どもたちがともに学ぶために、必要だと思うことは何ですか?
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インクルーシブという言葉はだいぶ浸透してきていますが、内情が整っていないと感じます。
教育に関することで言えば、「インクルーシブ教育」の理念に共感し、障害のある子どもの親が地域の学校に通うことを願っても、実情として対応できないケースもまだまだ見られます。
例えば、静岡県では盲学校は県立ですが、地域の学校は市立です。この両者の連携がなければ、視覚障害のある子どもに必要な専門的な教育、または、教育課程で定められた教育内容のどちらかを選ばなくてはいけません。
私の理想は、二者択一ではなく、必要に応じてどちらの利点も得られることだと考えています。たとえば、視覚障害のある子どもが地域の小学校に進学した場合、盲学校の先生が一緒に地域の学校に入り、科目によっては対象の児童をフォローしながら教えることができると良いなと考えています。どちらの学校にも籍がある副籍という方法も考えてもいいと思います。
弱視の人が使用する単眼鏡は、使い方を習得するまで専門的な支援が必要と考えますが、小学校3年、4年生になれば使い方にも慣れ、生徒ひとりで使えるようになってきます。地域の学校の先生にとっても、盲学校の先生が教える姿を数年間にわたって見ているので、地域の先生自身も単眼鏡の使い方を教えられるようになっている、という次第です。
なお、盲学校の先生は「専門性がある」という前提で話をしていますが、これは教える生徒がいてこそ、です。今は地域の学校を選ぶ視覚障害の子が増えているため、盲学校の教員にとっても教える機会の確保が必要です。そのためにも、盲学校の先生、地域の学校の先生どちらの成長にもつながるよう、両者の連携が進むことを願っています。
つながるくんコラム
視覚障害ってなに?
片平さんのプロフィールに「ロービジョン」という表現があったね。視覚障害=目が見えない人のことだと思っていたけど、本当は違うんだって!
一人一人違う!?視覚障害者のいろんな見え方
※株式会社ミライロ「ミライロ通信」より
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