これまでの活動
遺贈・遺言セミナー「おひとりさまの老いじたく」(東京、大阪)
1人住まいの方や、子どものいない夫婦の世帯を主な対象とした遺贈・遺言セミナー「おひとりさまの老いじたく」を、朝日新聞東京本社(10月17日、90人参加)と大阪本社(10月2日、95人参加)で開きました。講師はいずれも、弁護士の中山二基子(ふきこ)さんにお願いしました。講演会では、お一人さまなどの人たちが「老いじたく」を迎えるに当たって、どのような点に注意をすればいいのかを話してもらいました。
中山さんは、年を取ると心配になることとして、①相続、②自分自身の葬儀やこれまでの入院費の支払いといった「死後の事務処理」、③認知症が出た時の対処という3点を上げました。
相続については、間違いのない遺言を作っておくことが大切です。死後の事務処理や認知症に備えるためには、遺言執行者を事前に指定しておいたり、財産を自分で管理できなくなった時のために任意後見の契約をしておいたり、ホームロイヤーの契約などをあらかじめ行っておくといったことが有効な手段となります。
中山さんは、良い老いじたくを行った例として、以下のような独身男性のケースを紹介しました。この男性は、自分の死後、預金は解約、不動産は売却という形で全財産を現金化した上で、自分の思い入れのある複数の団体に遺贈を行う、という公正証書遺言を作りました。遺言執行者として弁護士2人を指名し、認知症が出た場合には任意後見人になってもらうようにも頼みました。また、任意後見が発効するまでの間は、かかりつけ弁護士になってもらう「ホームロイヤー契約」も結びました。ホームロイヤーにかかる費用ですが、「月1万円ほどからスタートすることが多い」ということでした。
逆に、遺言がなくて困った事例として、夫に先立たれた80代半ばの妻の事例を挙げました。この女性は夫の死後、家を売って老人ホームに入居したかったのですが、夫が遺言を残しておかなかったために、遺産相続人として、夫の兄弟や甥姪など全部で22人もの血縁者が現れてしまいました。この全員から承諾をもらわないと、家を売れなくなってしまったのです。
兄弟には遺産相続をする権利はあっても、法律上、必ずもらえる遺留分はないので、夫が生前に「全財産を妻に与える」という遺言を残しておきさえすれば、トラブルを避けられたケースでした。夫は、「兄弟には相続権はない」と勘違いしていたので、遺言を書かなかったそうです。
遺書には、公正証書遺言、自筆遺言、秘密証書遺言の3種類があります。自筆証書遺言は、自分だけでいつでも書けるので手軽ですが、相続が発生した際には、相続人全員が集まってその内容を知る「検認」という作業を、家庭裁判所が行う必要があります。
公証役場で作ってもらう公正証書遺言のほうが、間違いも少なく確実なので、中山さんはこちらの方が「お勧め」ということでした。公正証書遺言を作る費用は、遺産総額などで異なって来ますが、「5万~8万ほどが一番多い」とのことでした。
また認知症になった場合への備えとして、財産などを管理してもらう人を、自分に判断能力があるうちに決めておく「任意後見制度」についても説明がありました。この制度を事前に用意していた人のうち、実際に認知症になって任意後見がスタートされるのは全体の2割程度だそうです。残り8割の人は、最期まで自分で財産管理などを行ったまま、一生を終えられるそうです。
東京では今回初めての試みとして、中山さんの講演会のあとに個人的な相談を行う個別相談会を開催しました。こちらは申し込み多数だったため抽選で11人が選ばれ、弁護士3人と税理士1人が相談に対応しました。
大阪会場では個別相談会はありませんでしたが、講演後に質問が多く寄せられ、中山先生は「良い質問が多い。みなさんしっかり理解を深めてくださった」と話していました。「どこに相談に行ったらよいか迷っている」という質問があり、社会福祉協議会の顧問弁護士が行っている無料法律相談や市役所のような無料法律相談、有料のものならば、弁護士会が実施している高齢者・障害者のための法律相談などがあると紹介しました。「公正証書遺言の時に、証人はどんな風に選べばいいのですか」という質問には、「誰も知り合いがいない時は、公証人に率直に言ってください。公証人が信頼できる人を紹介してくれます」と答えました。