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「これって認知症?」を開催(東京・大阪)

認知症が疑われたら、まず何をすればいいのか? またどのような治療法があるのか? あまり知られていない認知症の初期症状やその対応についての講演会「これって認知症? ~早期治療の体験から学ぶケアの実際とこれからの課題~」を3月26日(土)に東京・築地の浜離宮朝日ホールで開催し、242人が参加しました。

講師は、週刊朝日編集委員の山本朋史(ともふみ)さんと、メモリークリニックお茶の水院長の朝田隆さん。63歳になる山本さんは、週刊朝日の現役の記者です。しかし、取材でのしくじりなどで自分の物忘れが気になり、東京医科歯科大学医学部付属病院の「もの忘れ外来」に務めていた朝田隆医師に診察してもらった結果、2014年に軽度認知障害(MCI)と診断されました。

山本さんは、主治医となった朝田医師らから受けた認知症治療の体験を週刊朝日に同時進行で連載し、14年12月に「認知症早期治療実体験ルポ ボケてたまるか!」と題した本にまとめ、朝日新聞出版から刊行しました。

講演で山本さんは、自分の記憶力の問題に気づいたのは、二つの取材先に対して同じ日時に約束を入れてしまうダブルブッキングをしたことがきっかけだった、と話しました。しかし、その前から「簡単な漢字が書けなくなる」とか「ズボンのチャックを閉め忘れる」といった物忘れの兆候が出ており、脳の断層写真を撮るMRIと脳血流の流れを調べてもらった結果、朝田医師からごく早期の認知症だと診断されました。

「このままだと記者を続けられなくなる」とショックを受けた山本さんは、朝田医師が当時教授を務めていた筑波大学付属病院に週一回、認知力アップのトレーニングにデイケアで通うことになりました。

頭を使うパソコンを利用したゲームや、水彩画を描く「芸術療法」、歌ったり楽器を奏でる「音楽療法」といったトレーニングを受けましたが、なかでも山本さんに一番効いたというのが筋トレでした。

会場では、太ももを鍛える足上げの姿勢や、両足を大きく広げた股割りの形で行うスクワット、ももに挟んだ握り拳で閉じた自分の両膝を広げようと試みる肩の運動など、山本さんが受けて来た「本山式若返り筋トレ」を実演して見せました。こういった運動を行うと、筋肉から痛みの刺激が脳へと上がっていくことで感覚神経がうまくつながり、脳を活性化するそうです。これらトレーニングの結果、山本さんの認知症の進行は止まったそうです。

続いて山本さんの主治医の朝田医師が「認知症の基礎知識」について講演しました。

現在、日本の認知症患者は500万人を超え、その予備軍も450万人以上と見られています。全患者の7割が80歳以上で、うち8割が女性。有病率は5歳刻みで倍増しています。しかし、高齢で発病するということは、遺伝の影響が少なく、それまでの生活の総決算という面が強いということでもあるので、逆に言えば「予防効果が期待できるということ」と朝田医師は言います。

認知症予防には何が効くのか? 医学的に行われた介入試験の結果では「ビタミンB、C」や「銀杏葉エキス」「降圧剤」といった栄養や医薬品については、いずれも期待薄。一方、山本さんが受けたような「運動」や「認知トレーニング」は「リスクを減らす」、「少しだけリスクを減らす」といった評価が下されています。

特に有酸素運動が、前頭葉の機能を高めるとされています。その望ましい運動強度については、「おしゃべりしながらでは、できないくらいの強さ」と朝田医師。隣の人と話しながらでは続けられないくらいの速さで歩くのが望ましいそうです。

二人の講演の後は、山本さんと朝田医師の対談が行われ、会場からの質問に答えました。

「加齢による普通の物忘れと認知症との差は何か」という質問に対して朝田医師は、「自宅の2階に物を取りに行って、ハテ?何を取りに来たのか忘れてしまった、などといったことは認知症とは言わない。個別の物ではなく、そうしたことが『あった』というエピソード自体を忘れてしまうのが認知症」と説明。例として、前日までのストーリーを忘れてしまうので、NHKの朝の連続テレビ小説が楽しめなくなる、といった症状だと説明しました。

「認知症が疑われるのに、本人が専門医にかかることをいやがる場合に、どう連れて行ったらいいのか」という質問に対しては、「主に男性の場合に有効な方法」として、「奥さんのほうが、『自分の認知症が不安なので、お父さんも病院に付き添って欲しい』とお願いをし、ついでだからと本人も一緒に診断を受けさせる」という方法を紹介しました。ただしこの方法は、男女が逆だと余り使えないそうです。

また「物忘れ外来のかかり方」に関する質問では、物忘れ外来の医師は、日本老年精神医学会か日本認知症学会に所属しているので、ネットで両学会の専門医を探して、自分のかかりつけ医に紹介状を書いてもらって診察してもらう、というのがよいということでした。

大阪でも、山本さんと朝田医師による同じ講演会を大阪市中央区高麗橋の朝日生命ホールで2月28日(日)に開催し、263人が参加しました。