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トークセッション「これからの日本を担う子どもへの美の教育」

洋画家の絹谷幸二さんと、その長男の幸太さん、次女の香菜子さんの3人を招いた鼎談「これからの日本を担う子どもへの美の教育」が、「朝日チャリティー美術展」会場近くの銀座フェニックスプラザで8日に催された。

美術展が90回になることを記念して開かれたトークセッション「芸術の力」の2回目で、絹谷さん親子がそろって公の場で話をするのはこれが初めてだという。

絹谷幸二さんは、大阪芸術大学教授で、壁画の古典技法であるフレスコ画法の第一人者。色鮮やかな作品を多く発表することで知られている。長男の幸太さんは、東京芸術大学で彫刻の博士号をとってブラジルに留学。名古屋大学、名古屋芸術大学、大阪芸術大学で教鞭をとりながら、日本とブラジルで石を用いた彫刻の制作活動を続けている。次女の香菜子さんは、日本画の伝統的な技法を扱いながらも、自由な発想による画風で注目を集めている日本画家。

絹谷家は2男2女で子どもが4人いるが、うち2人が芸術家へと育った。絹谷家で行われてきた芸術教育について香菜子さんは「父からは自分の個性を出せ、人と同じことをするなと教えられた。逆に、この色を使えとか、こうした方がいいとかは言われたことがない。常に自由にやらせてくれた」と話し、幸太さんも「人生は芸術で、芸術は人生だと何百回も教えられた。芸術的な人生を作ることこそが大切だと言われ続けてきた」と述べた。

伸び伸びとただ自由に個性を伸ばす機会を与えてくれた父親に対し二人が感謝の意を述べると、幸二さんは眼鏡を外し「泣かせてくれますな」と、思わず涙を拭くシーンも。自分と同じ道を歩み始めた壇上の二人の子どもを眺めながら幸二さんは「彼らが私の『作品』です。ほっといたら、こうなりました」と紹介した。

絹谷家の残りの2人の子どもは銀行員になる道を選んだ。幸二さんは「世間では教育しなければいけないというが、芸術は、もしかしたらあまり教育しちゃいけないのでは。銀行では1足す1が2にならないとダメだが、芸術の世界では他人と同じく2だと言ったら、そのほうが間違いになる。世間様とは全く逆」と、常識的な世界とオリジナリティーを重視する芸術の世界のあり方の違いを説明した。

日系人のブラジル移民百周年の記念として、幸太さんが巨大な御影石を使った六つの作品造りに挑んだものの、日本からブラジルまで輸送する経費が出せず、幸二さんに「生前贈与」を頼んだというエピソードを紹介。幸二さんは「世間ではニートがいけないように言うが、彫刻ではどうせ食べられないのでニートでいい。また世間では学校に行かなくちゃいけない、引きこもっちゃいけないというが、芸術家はアトリエに引きこもらないと作品は作れない」と芸術家のあり方を述べた。

子どもたちに絵画を教えている香菜子さんは講演の最後に「父親から学んだことを、自分も子どもたちに伝えていきたい。また自分も父のように作家として大きくなりたい」と父親をたたえた。

トークセッション「芸術の力」は美術展最終日の9日(月)も催され、日本画家の千住博さんと妹でバイオリニストの千住真理子さんの二人が「だれもがより良く生きるために」と題して、絵画や音楽が社会に対して果たす役割などについて話し合う。