これまでの活動
大切な人を失った子どもたち~これからのグリーフケア~
講演会「大切な人を失った子どもたち」(子どもグリーフサポートステーション、朝日新聞厚生文化事業団主催)を6月29日に大阪市住之江区のホテルコスモスクエア国際交流センター、30日に東京都中央区の浜離宮朝日ホールで開きました。合わせて約450人が参加、これからのグリーフ(悲嘆)ケアのあり方を探りました。
30日の東京での講演会では、午前中、米国ハワイを拠点にしているNPO「キッズハートツーハワイ」のエグゼクティブ・ディレクター、シンシア・ホワイトさんが「大切な人を失った子どもを支えるということ」と題して講演しました。
「キッズハートツーハワイ」は、2001年にホワイトさんがパートナーの伊藤ヒロさんと創設した団体で、死別や離婚、虐待などで親や身近な人を喪失した子どもへのグリーフサポートに取り組んできました。ホワイトさんは、この活動を、サポートを受けている子どもたちの生き生きとした映像に合わせて紹介したあと、2011年から続けている東日本大震災の被災児支援の取り組みにも触れました。
続いて、脳の機能にも影響を与える「トラウマ」と、喪失への自然で健全な反応である「グリーフ(悲嘆)」との違いを踏まえて、子どもたちのケアの手法を説明。癒(いや)しが生じ得る人々や場所、支えになるピア(仲間)グループ、いつも利用できる人々のつながり、などの社会的ネットワークも重要であることを強調しました。
ホワイトさんは、サポートする側の心構えについて、「悲惨な話を共有し、自分の重荷として受け止めてほしい。苦しみを聴いてもらった子はほっとする。そこに意義を感じてほしい」と呼びかけました。
午後には作家の落合恵子さんが「悲しみに向き合う」の演題で講演。「知性とは、他者の痛みに対する想像力から生まれるもの」であることを教えてくれたという母とのつながりをはじめ、自らの歩みを振り返りました。自分の悲しみ、痛みと向かい合う一方で、社会の中のさまざまな差別や偏見と戦ってきたことをユーモアを交えて披露。グリーフケアのあり方を深く考えさせる内容に、参加者は熱心に耳を傾けていました。
講演の中で落合さんが主宰するこどもの本の専門店クレヨンハウスが作ったCD付き写真絵本「空より高く」の歌も流されました。岩手県の幼児らの歌がラジオで放送され、東日本大震災の被災者を励ます「応援歌」のように歌われているとのことです。
続いて、「グリーフケアのいま」と題した実践報告があり、日本ルーテル神学校が主催する「だいじな人を亡くした子どもの集まり」で、子どもに寄り添うファシリテーターを務めている小嶋リベカさんが報告。「集まりで非日常を体験し、それまで触れられないと思っていた話題に触れることができるようになることが、子どもや家族の日常を支え、小さな変化をもたらす」と意義を説明しました。
NPO法人「子どもグリーフサポートステーション」代表の西田正弘さんは仙台を拠点にした活動を報告。東日本大震災で親を亡くした子どもは約1800人いるが、祖父母やきょうだいを亡くした子どもたちはもっと多く、思った以上に大きなダメージを受けているにもかかわらず、見落とされ、サポートを受けていないことを指摘しました。西田さんはさらに、「混乱のさなかにいる子どもには、本人の声に耳をすましてくれる、誠実な大人が必要だ。サポートの取り組みを、仙台だけでなく、全国に広げていきたい」と語りました。
講演会の最後は「これからの日本のグリーフケア」をテーマにしたトークセッション。ホワイトさん、落合さん、西田さんの3人が、自らの喪失体験やグリーフとの向き合い方や社会のあり方も含めて語り合い、「人は、いろんな人とのつながりの中で悲しみ、痛みに振り回されない『体力』をつけていける」(西田さん)など、人のつながりの大切さ、子どもたち一人ひとりに丁寧に向き合っていく大切さを確認しました。
子どもに寄り添うファシリテーターについて、「話をちゃんと聴いてくれる人がいると、話せるようになる」「ファシリテーターは子どもたちからもらうものの方が多い」「ファシリテーター自身も自分のグリーフを見つめ、自身を大事にする必要がある」などの発言もありました。
29日の大阪での講演会は、ホワイトさん、落合さんの講演、ホワイトさん、落合さん、西田さんによるトークセッション、西田さんの実践報告のほか、大阪のぐりーふサポートハウス副理事長の佐藤まどかさんによる実践報告がありました。
佐藤さんは臨床発達心理士で、カウンセリングスペース「リヴ」代表を務めており、リヴとぐりーふサポートハウスで、子どもの育ちを支えるために家族を支えている活動などを紹介。「スタッフ自身が子どもたちやその家族に力をもらえる幸せを実感している」と語りました。