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「『発達障がい』とともに生きる豊かな地域生活応援助成」 助成団体紹介
2024年度を以て新規募集を終了した「『発達障がい』とともに生きる地域生活応援助成」。22年度から3年度にわたり、35団体に総額3058万7870円を助成しました。
今回は当助成金初年度である、22年度助成団体「l‘aulea 遊びリパークリノア」(以降、リノア)職員の安田一貴さんが、映画の製作現場で活躍したと聞き、詳しくお話を伺いました。
安田さんはリノアの職員として活躍する一方、プロのカメラマンとして2017年から「笑顔の向こうに繋がる未来プロジェクト」の代表も務め、多数の受賞歴を誇ります。このプロジェクトは、病気や障がいのある子どもとご家族のもとに出向き、時間をかけ、心を和ませながら写真を撮影するという活動です。
そんな安田さんから、「ある映画で『スペシャルニーズスーパーバイザー』として製作にかかわったので試写会へお越しください」と連絡が。二足のわらじで活躍するだけでも大変なのに、さらに新たな活動に携わったと聞き、また、今までに聞いたことのない役割に興味をひかれ、お話を聞きに行きました。
安田 一貴 (やすた かずき)さん
放課後等デイサービス・児童発達支援事業所管理者/フォトグラファー(ウズベキスタン派遣/青少年活動)
理学療法士として大学病院に勤務し、小児がんの子どもたちのリハビリ等を担当。2011年、JICA海外協力隊としてウズベキスタンへ赴任。現地の小児病院で活動を行う。帰国後、国内の国立成育医療研究センター病院等を経て、現在は神奈川県(横浜市)にて障がい児支援施設の運営と支援現場に携わるほか。重い病気や障がいのある子どもとその家族を専門に撮影するフォトグラファー、映画製作のスペシャルニーズ・スーパーバイザーとしても活動中。
スペシャルニーズスーパーバイザーについて
- 「スペシャルニーズスーパーバイザー」、初めて聞く役割です。
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おそらく僕が初めての人だと思います(笑)。
- どのような経緯で引き受けることになったのですか。
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映画の助監督からメールをもらったのがきっかけです。
助監督は「笑顔の向こうに繋がる未来プロジェクト」のホームページに掲載している写真を気に入ってくれて、「こういう写真はどのようにすれば撮れるのか。一度話を聞かせてほしい」と打診してきたのです。2023年8月末頃の話です。
「怪しい」(笑)と感じましたが、制作会社は実在するようだし、拒む理由はないと思い、会ってみました。この場で、映画のテーマや出演する障がいのある子どもを探していることなどを聞かされました。話を聞くと、「福祉や障がいに関する啓発の映画ではなく、監督はエンターテインメントを撮ろうと考えている」と。
メディアで紹介される障がいのある人は、「頑張っている」「逆境に立ち向かう」構図であることが多く、違和感を覚えていました。障がいのある子どもが、特別扱いでなく、ほかの出演者と同じように「役者の一人」として参加するという趣旨なら、プロジェクトを通じて知り合った子どもたちを紹介できるかもしれない、と協力することにしました。また、映画製作を機に、エンターテインメントの制作者側に、障がいのある子どもたちを知ってほしいという思いもありました。
- 具体的には、どのようなことを行ったのですか。
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制作準備段階では、制作者と出演者のつなぎ役です。映画に出演した子どものうち、6人は私が紹介しました。私から知り合いのご家族に連絡を取り、映画出演に興味があるというご家族のリストを作成したり、4~5か月かけて数十人の子どもや家族と製作側を引き合わせたりしました。
また、撮影に入ってから必要になるものや撮影環境についてアドバイスをしたり、オムツ替えスペースや呼吸器用の電源確保、待機場所の整備、衣装合わせなどにも関わったりしました。
撮影は2024年3~5月に行われたのですが、泊りがけのロケも含め、6人が出演する現場にはすべて立ち合いました。子どもの抱き方を親役の俳優さんにアドバイスし、映画で主人公が咳をしたりするシーンでは、出演者に負担をかけずにこのシーンが撮影できるよう、理学療法士としての知識経験を活かして助言を行いました。また、私自身もちょっぴり出演しています。
- 障がいのある人が出演する作品はほかにもありますが、スペシャルニーズスーパーバイザーが起用された例を知りません。なぜこの役割が必要だったと思いますか。
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重度障がいがあり、医療的ケアが必要な出演者もいるため、具体的に何を準備するか、物理的、心理的な配慮で必要なことなどをリストアップするための要員として、必要な役割だったと感じます。
ですが、もっと重要だったのは、製作者と障がいのある出演者の橋渡し役だと思っています。実は、当初「スペシャルニーズスーパーバイザー」という役割は存在しませんでした。当初、映画に出演する障がいのある子どもたちは一括りで「サポートキャスト」と呼ぶと監督から通達がありました。
私としては到底受け入れられず、ひと言申し入れようと思っていたところ、私よりも先に助監督がそれに異を唱えたのです。助監督は出演者を一から探し、この人こそ、と確信してキャスティングしているのだから「サポートキャスト」と一括りで呼ぶのはおかしいのではないか、と。
こういった発言が、僕ではなく、助監督からあがってきたことに、大きな価値があると感じています。といのは、かくいう助監督も初めから福祉、障がいのある人への理解が深かったかというと、必ずしもそうではありませんでした。ですが、キャスティングの過程などを通して、何度も子どもや家族と接するうちに、「大勢のうちの誰か」ではなく、「替えの利かない出演者」と感じてくれるように変化したのです。
呼び名はいったん白紙になり、医療や福祉の現場で用いられる「スペシャルニーズ」にちなみ、私の役割は「スペシャルニーズスーパーバイザー」となりました。
この経緯から、障がいのある出演者が「俳優の〇○くん」と捉えなおしてもらうための橋渡しとして貢献できたと思っています。
撮影中にも、「これは難しいですよね」とスタッフが先行して判断をしようとするケースがありました。ですが、私はまず本人に撮影スタッフの希望を伝え、本人や家族に挑戦するかどうか意見を聞くように心がけました。もし本人が挑戦すると決めたのであれば、ここでこそ専門性を発揮し、安全に挑戦するために必要な準備を一緒に考えるべきだと思いました。
子どもにとって本当のリスクとは、危ないからと大人が先回りしたり、できないと決めつけて挑戦させたりしないことによって、体験や経験、学び、チャレンジの機会が奪われることだと思います。ですが、重度障がいのある子どもや医療的ケアの子どもの周囲の大人、特に専門家は「危ない」という理由で、リスクを考え、先回りしてストップをかけてしまいがちです。怪我をするかもしれないし、何かがおこるかもしれない。でも、そのリスク以上の価値があるから参加する、チャレンジすることを尊重しました。
この思いのもと、実現したのが、気管切開している演者の入浴場面。監督が入浴シーンを撮影したいと言うと、製作者側から「危ないのでは」と声が上がりました。ですが、私が本人に問いかけたところ、答えは「YES」。そこで、どうすれば安全に撮影できるかを検討し、無事に入浴シーンを撮影することができました。
- 撮影を進めるにつれ、仲間意識も強くなっていったとのこと。完成版を鑑賞した本人やご家族はどのような様子でしたか。
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撮影が進むにつれ、障がいのある子どもたちがその場にいることが、当たり前の風景になっていきました。俳優陣や制作スタッフが、当たり前にこどもたちにあいさつをしたり声をかけたりするなどコミュニケーションをとっていて、子どもたちも、出番になると、役名で呼ばれセットに入っていました。そんな様子を見ていて、インクルージョンの形が自然とできあがっていていくのを感じました。
撮影前には「サポートキャスト」として一括りになっていた頃とは大違いです。映画制作を通じて、特別な存在だった「障がい児」が一緒に映画をつくる「仲間」になっていったのです。そんな大切な仲間のため、当初は予定になかった、障がいのある出演者とそのご家族用の試写会が追加で行われました。
この試写会後、ある出演者のお母さんが、「これまで人に助けてもらうばかりで、かわいそうと言われる存在だった。それが今は、弟にとって自慢のお兄ちゃんになった」と話してくれました。人に期待される経験、役割を担う経験を通して、その子自身や家族の自信に繋がって、生きる価値を高めてくれるのだと感じました。
- 最後に、障がいのある人がこのような形で表舞台に出ることについてどう思いますか。また今後どうなっていくと良いでしょうか。
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障がいのある子どもたちに関わる仕事を通じ、私はこれまで、たくさんの力をもらってきました。それと同時に、病気や障がいを理由に、色々な機会が制限されていることに疑問や違和感を抱いてきました。環境が整い、チャンスがあれば、障がいの有無に関係なく、色々なことができる可能性があるはずです。
カメラマンとしての仕事のなかでも、私の写真を見て、感動した、被写体への愛情を感じると言ってくれる人がいて、評価や受賞につながったこともありますが、それは私の力というより、子どもたちの魅力だと思っています。
エンターテインメントの世界では、たとえば知的発達の遅れを伴わない車椅子ユーザーやダウン症、低身長といった人の活躍が見られるようになってきましたが、重度の障がいや医療的ケアのある子どもの活躍、もっと言えば、こういった子どもたちの存在が社会にまだまだ十分に知られていないと感じています。存在に加え、あの子たちの人を惹きつける力、動かす力、色々なことができて、チャレンジする力があることを知ってもらうためのサポートをしていきたいと思います。
この映画のポスターには、右上から伸びた大人の手と、左下から伸びた子どもの手が触れあうような構図の写真が使われています。大人の手は助監督、子どもの手は主人公の手です。映画の内容ではなく、「エンタメの世界と障がいのある子どもをつなぐ」という社会へのメッセージが込められています。これまで「可能性」としても考えられてこなかった世界と、障がいのある子どもたちをつなぐ。エンタメに限らず、今後もそういう役割を果たしていきたいと思います。
- 最後に、映画のセリフで心に残っているものをご紹介します。
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佐 竹「みんなが…新を励ましてる」
明 野「え?(笑い)逆だろ」
佐 竹「...?」
明 野「みんなが、こいつに励まされてんだ」
私は日本や海外で様々な環境、立場で、病気や障がいのある子どもたちと関わってきました。うまくいかなかったり、周囲から批判されたりする経験も多くありましたが、子どもたちに励まされ救われ、そのおかげで続けてこられたと思っています。本当に大切なことは子どもたちが教えてくれていて、その結果、今に繋がっていると考えています。
安田さんがスペシャルニーズスーパーバイザーを務めた映画『時には懺悔を』は8月28日(金)公開。詳細はこちらから 映画『時には懺悔を』公式サイト