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「ぴあ応援ラジオVol.20」:早川悟司さんが語る、措置延長の課題と展望 ― 社会的養護の未来を拓く
朝日新聞厚生文化事業団が支援している児童養護施設などで暮らした経験のある若者たちによる「ぴあ応援団」では、YouTube番組「ぴあ応援ラジオ」を配信しています。
第20回の番組では、社会福祉法人子供の家本部理事である早川悟司さんをゲストにお迎えし、「措置延長」の現状、課題、そして未来の展望について深く掘り下げました。ここでは、2024年9月24日に公開したその番組の内容をご紹介します。

ゲスト:早川悟司さんのご紹介
早川悟司さんは、20代半ばまで飲食店の店長としてご活躍された後、福祉の世界へ転身されました。社会福祉の大学で学び直し、26歳から今日まで一貫して社会的養護に関わってきました。 早川さんの問題意識の根底にあるのは、「支援の格差」です。具体的には、施設内の格差、施設間の格差、地域間の格差、そして一般家庭との格差という4つの格差の解消・緩和を目指し、ご自身の経験と思いを基に様々な活動や研究をされています。特に、幼少期に不安定な状況にあった社会的養護の子どもたちが、一般の若者よりも早く「自立」を強いられることや、家庭が機能しないという理由だけで学校や地域から引き離されること、そして支援の格差が人生の格差に直結してしまうことに対して、問題意識を感じてこられました。

「措置延長」とは? 制度の現状と大きな進歩
「措置延長」とは、児童福祉法に基づき、18歳未満で社会的養護の措置が開始された子どもが、最長で20歳まで施設での支援を継続できる制度です。さらに、2017年からは「社会的養護自立支援事業」が導入され、必要であれば22歳の年度末まで支援が継続されるようになりました。また、2024年からは「児童自立生活援助事業」により、それを超えても状況に応じて支援の継続が可能となりました。一度措置解除された人が、必要に応じて再入所できるようになった点も大きな進歩です。早川さんは、これらの制度改善について「10年前と比べたら格段に使い勝手が良くなっている」と評価されています。
なぜ広まらない? 措置延長の3つの壁と早川さんの打開策
制度が充実しているにもかかわらず、措置延長がなかなか広がらない現状について、早川さんは業界内でよく言われる3つの理由を挙げ、それぞれに具体的な打開策を提示されました。

1. 児童相談所(児相)の理解不足
理由
特に東京や大阪などの都市部では、児童相談所が、「措置延長をすることで、新しい子どもを児童養護施設が受け入れられなくなる」と考える傾向があるため。
早川さんの反論・解決策
「子供の家」では、児童相談所に対し、社会的な自立に向けたアセスメント指標を用いて、金銭管理能力、対人コミュニケーション能力、時間管理能力など8項目で子どもの現状を評価し、措置延長中の具体的な支援計画書(プランニングシート)を提出しています。これにより、児童相談所も措置延長を認めやすくなるとのことです。
また、「子供の家」が定員に空きが出ればすぐにどんな子どもでも受け入れる体制を整え、入所段階から措置延長を視野に入れるよう児相に働きかけるなど、相互の信頼関係を構築する努力が重要だと強調されています。
2. 施設のキャパシティ(受け入れ能力)不足
理由
措置延長の子どもを受け入れると、新しい子どもを受け入れるスペースがなくなるため、小さい子どもや虐待を受けている子どもを優先したいという施設の考え方。
早川さんの反論・解決策
キャパシティの問題は、グループホーム(地域に住宅を借りる)を増やすことで解決できると早川さんは指摘します。実際、「子供の家」では2017年時点で42人だった入所者が、現在では60人を超えて生活しており、これは措置解除後の人も含みます。
さらに、地域の地主さんに家を建ててもらい、家賃を国や自治体が出す仕組みを活用すれば、施設側が土地や費用を持たなくてもキャパシティを増やせるため、「箱が足りないというのは言い訳にならない」と早川さんは解説されています。
3. 生活様式の違いによるイメージの困難さ
理由
高校生と大学生では生活時間帯や行動範囲が異なるため、同じ施設内で一緒に生活させることがイメージできないという声。
早川さんの反論・解決策
「やらないからイメージできないだけで、やればイメージはつく」と早川さんは断言します。早川さんの施設では、初めて大学生が措置延長で残った際に、高校生と異なる自由な生活を送る大学生に対し、現場の職員が「ずるい」という声への対応に戸惑った経験があったといいます。
しかし、早川さんが「それが大学生だと言ってあげなさい」と伝えると、職員も納得し、柔軟な対応が可能となりました。以来、「子供の家」では大学進学が当たり前となり、それぞれのニーズや発達段階に応じた柔軟な支援(例:措置延長しながらアパートを借りて一人暮らしをするなど)が実現しています。これは、大人たちが「イメージできないこと」に挑戦しないことへの疑問を投げかけるものです。
施設のルールと子どもの権利:柔軟な支援の重要性
番組では、措置延長後の施設のルールに関する問題も取り上げられました。ゆきのさんは、ご自身の経験として、大学進学後も高校生と同じルールでの生活を強いられ、友達との関わりに支障が出たため、措置延長をしたくないと感じたことを話されています。 早川さんは、このような「高校生以下の人と同じルールを守れることが措置延長の条件」とする施設があることを認めつつ、それは「そもそもおかしい」と話されています。18歳は成人であり、一般家庭の大学生が年齢に応じて自由な生活を送るように、社会的養護の子どもたちも「大人として扱われるべき」であると主張。
さらに、私たちが税金で運営される公的な仕事をしている以上、子どもたちは「権利として社会的養護を受けている」のであり、大人側の都合でルールを押し付けることは筋が違うと述べています。施設は子どものためにあるのであって、「子どものために施設がある」という発想の転換が必要だと強調されました。

支援の格差をなくすために:自己決定と非審判的態度
ゆきのさんからは、措置延長の条件に「両親からの金銭的援助が見込めるなら措置延長はできない」といった施設独自の条件があることへの疑問も呈されました。 早川さんは、このような施設独自のルールや条件設定の背景には、児童養護施設の成り立ちが、法律ができる前の「個人の善意」による保護活動から始まった経緯があり、そのため「うちにはうちのやり方がある」という風潮が強いと分析されています。しかし早川さんは、私たちは税金で運営する公的な仕事をしている以上、「根拠のないことをやってはいけない」と主張。憲法や国連の権利条約、児童福祉法といった法律に基づき、子どもたちの「権利」を最大限に生かすべきだと述べられました。
また、早川さんは、ケースワークの基本原則である「自己決定の原則」と「非審判的態度」が重要であると語ります。しかし、現実には会議で本人の意思を問わずに措置延長の可否が決められ、成績優秀な子は支援が継続されるが、そうでない子は「働きなさい」と区別されるなど、子どもを「ふるいにかける」ような風潮があると指摘。
「子供の家」では、このような判断を会議で行わず、「高校卒業後も最長20歳までの措置延長、および20歳を超えた入所支援の継続を積極的に活用する」という方針を明確に掲げ、入所段階から子どもたちに伝え、「全員に対して同じように応援する」ことを標準としています。このような「ノーマルな基本に沿ったソーシャルワーク」を実践する施設が少ない現状に、早川さんは課題意識を持っていらっしゃいます。
中高生へのメッセージ:諦めずに声を上げよう
最後に早川さんは、今まさに社会的養護の施設で生活する中高生に向けて、力強いメッセージを送られました。

「もしかしたら不自由な状況や厳しい環境に置かれているかもしれないが、それはあなたのせいではない。社会問題があるのはあなたに問題があるのではなく、社会の側の課題だからです。だから、とにかく声を上げてほしい。もし身近な人に聞いてもらえなかったら、児童相談所の職員やピアサポートのグループ、アフターケア相談所など、誰かしら聞いてくれる人はいるはずです。声を出すことを諦めないでください」。
また、支援者側にも、「子ども一人ひとりがかわいそうだから支援する」のではなく、「これは社会問題であり、社会的な不平等をどう絶つかという重要な仕事である」という意識を持ってほしいと訴えました。社会的養護の問題は「世代間で連鎖している」ものであり、支援者の最大の使命は、「目の前の子でその世代間連鎖を止めること」であると強調されています。
今回のラジオでは、措置延長という制度の可能性と、それが浸透しない理由、そしてそれらを乗り越えるための実践的な解決策が、早川さんの熱い思いと「子供の家」での具体的な取り組みを交えて配信しています。お読みくださった皆さんに、措置延長の課題について考えるきっかけとしていただければ幸いです。