~支え合う安心社会の実現に向けて~
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これまでの活動

開催報告:「声にならない願い」に寄り添うために ~「あのとき、大人にしてもらいたかったこと」~

2025年5月17日(土)、栃木フォスタリングセンターが主催の「自立支援事業説明会」が里親、こども、関係機関など約30名が参加し宇都宮市で開催されました。この説明会の後半で「自立支援事業を経験した方からの経験談、座談会」部分について、ぴあ応援団ラジオチーム、公益財団法人教育支援グローバル基金ビヨンドトゥモロー、朝日新聞厚生文化事業団が協力して実施しました。

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社会的養護を経験した若者4名が登壇し、「あのとき、大人にしてもらいたかったこと」をテーマに、自らの人生における葛藤や、当時求めていた支援について率直に語りました。参加者との対話を通じ、声にならなかった「本音」に耳を傾ける貴重な場となりました。

全体の司会を務めたのは、団体の活動を支える大学生のりんかさん(大学3年・心理学専攻)。「無理に話さないこと」「自分のタイミングで言葉にすること」を大切にしたぴあ応援団の姿勢のもと、セミナーは穏やかな雰囲気で始まりました。

登壇者たちの声 - それぞれの「支援への願い」

パネルディスカッションの進行は、くうさん(大学1年、社会福祉専攻)。くうさんは「児童養護施設での暮らしを経て、現在は自立援助ホームで生活しながら大学に通っています。将来は社会福祉士を目指し、子どもたちが希望を持って、前向きに未来のことを考えられるような社会になれたらと心から願っていると話しました。

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まなみさん(大学3年生・環境法専攻)

「居場所を感じたことがなかったんです」

複数の施設や里親家庭を経て育ったまなみさんは、ずっと“良い子”でいなければならなかったと振り返ります。「手のかからない子でいよう、って思っていました。そうでなければ、そこにいさせてもらえないかもしれないと感じていたからです」

年下の子どもたちに優しく接し、役割を果たしているように見えても、心の中では「私はここにいてもいいのか」という問いを抱え続けていたと話してくれました。

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なつきさん(大学4年生・舞台芸術専攻)

「真実を知らされるのが17歳だったんです」

0歳から母子生活支援施設、乳児院、児童養護施設を経て、里親家庭に迎えられたなつきさんは、ずっと自分のルーツに向き合えずにいました。「知りたくて、ずっと相談所に聞いていました。でも、教えてもらえなくて。知らされなかったことが、不安と空想を生んで、ひとりで絶望を育ててしまっていたように思います」また、4歳で施設から里親家庭に移った際には、「試し行動」が激しかったことも率直に語ってくれました。「本当に受け入れてもらえるのか、自分をどこまで許してもらえるのか、不安でいっぱいだったんです」と話してくれました。

みのさん(大学1年生・IT専攻)

「“今、辞めていいんだよ”って言ってくれる大人が、いなかった」

施設での生活とアルバイト、部活動を両立しながら過ごしていたみのさん。当時は学費を貯めるためにアルバイトを続けなければならず、つらくても辞める選択肢を口にできなかったといいます。「先のことばかり言われて、“今”の自分を見てくれる人がいなかったんです」彼が発したこの言葉には、耳の痛さと同時に、私たち大人が気づかされることの多さが詰まっていました。「将来のために」ではなく、「今日」の心に寄り添う支援の必要性──。それは子どもたちの未来を守る鍵でもあると話してくれました。

ルイさん(高校3年生)

「話せば分かる」ではなく、「聞いてくれて、ありがとう」がほしかった

2歳から児童養護施設で生活しているルイさん。中学生のとき、突然実の親が「引き取る」と現れたことがありました。「何も知らされていなかったんです。突然、親が来て“連れて帰る”と。職員の人も“話せばわかる”って。でも、そのとき、すごく怖かったんです」最終的にはルイさんの意思が尊重されましたが、説明も納得もないまま進んでいく出来事に、心からの恐怖を覚えたと語ってくれました。

大人と子ども、それぞれの想いを持ち寄る対話の時間

セミナーの後半では、「大人」「子ども」に分かれて対話する時間が設けられました。若者たちの体験談を受けて、大人たちからは「どのように声をかけたら良いか」「支援の際に意識したいこと」など、実践的な質問が多く寄せられました。一方で、子どもたちからは「ずっと気になっていたことを聞けてよかった」「大人が真剣に聞いてくれてうれしかった」という声があり、互いの距離が少し近づいた時間となりました。

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「寄り添う」とは、いまこの瞬間を大切にすること

今回のセミナーでは、社会的養護を経験した若者たちが、それぞれの言葉で「自分の過去と向き合うこと」「どのような支援を求めていたか」について率直に語ってくれました。その言葉の一つひとつに共通していたのは、「未来のための支援」ではなく、「いま」の気持ちに寄り添う支援の必要性です。

「話せば分かる」ではなく、「聞いてくれてありがとう」と思える関係性こそが、支援の出発点であること。子どもたちの声は、私たち大人が持つべき姿勢を改めて気づかせてくれました。

本セミナーが、子どもたちの想いに応える支援の一助となることを願っております。