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連載インタビュー
「障がい」ってなに?もっと身近に、聞いて、感じて、知ってみよう!
第10回 :辻 一幸さん
辻 一幸 (つじ かずゆき)さん
日本ブラインドサッカー協会 職員、ロービジョンフットサル選手
東京都葛飾区ソイエ葛飾に所属するブラインドサッカー選手。弱視者向けのロービジョンフットサルもプレーし、ロービジョンフットサル日本代表として2017年、2023年に行われた世界選手権に出場。現在は、日本ブラインドサッカー協会事業推進部に所属し、ブラインドサッカーの体験会の講師などを務める。
目次
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1.つじさんは、どんな人?
- つじさんのこと、教えてください!
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0歳~3歳までを乳児院で育ち、それ以降は児童養護施設で育ちました。負けず嫌いな性格で、小学校4年生でサッカーを始めて、6年生で少年団、中学校、高校では部活でサッカーを続けていました。
児童養護施設で暮らす場合、高校卒業後に自立しなくてはならないことが多く、独り立ちに備えてアルバイトでお金を貯める人が多いのですが、私の場合は部活動を選んだので、卒業後はお金に苦労しました。
- 日本ブラインドサッカー協会との出会いを教えてください!
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高校卒業を機に自立した後、しばらくは生活環境を整えるのに必死でしたが、生活に少し余裕が出てきたため運送業に転職しました。経験を積んでいくとともに運転する車が大きくなり、ついには小学生の頃からの夢だったバスの運転手になりました。ですが、運転手になってほどなく受診した人間ドックで目に障がいがあることがわかりました。
子どもの頃からの夢を叶えたばかりのところに「いつかは見えなくなる」との告知を受け、とても落ち込みましたが、知人が「こんなスポーツがあるよ」と教えてくれたのがブラインドサッカーでした。
ちょうどその頃、ブラインドサッカーのアジア選手権が開催されており、障がいがあってもサッカーが出来るんだと知り勇気づけられました。視覚に障がいがあるからこそ、と今の自分を肯定したいと思い、日の丸を背負って世界で闘うことを目標に、ロービジョンフットサルを始めました。
2.ブラインドサッカーとロービジョンフットサル(LVF)について
- ブラインドサッカーとロービジョンフットサル(LVF)はどのように違うのですか?
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どちらも視覚に障がいのある人がプレーするサッカーという点では同じですが、障がいの程度によって、どちらをプレーするかが異なります。ルールや5人1チームとなって闘うこと、声や音を頼りにプレーするのはどちらも共通ですが、アイマスク着用の有無が一番の違いです。
アイマスクを装着して音の出るボールで闘うのがブラインドサッカー、アイマスクを着用せず、音のでないボールを使用するのがロービジョンフットサルです。「視覚障がい=全く見えていない」と思っている方も多いのですが、「見えにくい」という障がい程度もあるんですよ。また「見えにくさ」も人それぞれです。
ブラインドサッカーとロービジョンフットサルについて、詳しくは日本ブラインドサッカー協会のホームページに記載されているので、ぜひ見てみてください。
- ロービジョンフットサルの魅力を教えてください!
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選手ごとに「見えにくさ」に個性があることでしょうか。選手の視力によっては、自分から2メートルの位置に来て初めてボールの位置がわかるという人もいるのですが、自分はこんなボールなら取れるけれど、こういうボールは見失いがち、というように自分の特性を伝え合うことからチーム作りが始まるんです。お互いが補い合えるようコミュニケーションが重要な役割を果たすスポーツです。
- つじさんは日本ブラインドサッカー協会の職員さんでもあります。協会で働くことになった経緯を教えてください!
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ロービジョンフットサルの日本代表選手の選考会に足を運んだのがきっかけで、日本ブラインドサッカー協会の存在を知りました。その後、国立障害者リハビリテーションセンターで求人を見て、JBFAが行うダイバーシティ事業に共感し、就職を決めました。
- 日本ブラインドサッカー協会では、どのような活動をしているのですか?
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全国各地からの求めに応じて、ブラインドサッカーの体験教室を開催したり、企業の要請で研修会をしたりしています。ブラインドサッカー体験教室では、競技の魅力を知ってもらうことはもちろん、「視覚障がい=まったく見えない」と思っている人に対して、見えにくい人の見え方はどういう感じか、視覚障がいってどのような障がいか、ということを伝える機会にできればと思っています。
企業研修では、アイマスクを着用して「コミュニケーションとは」を考えてもらいます。ある指示が相手に伝わらなかったとき、それはアイマスクをして目が見えないからではなく、言い方が良くなかったのはないか、という気付きを得てもらい、ではどう伝えたら相手に理解してもらえるのかを考えるというものです。
たとえば仕事の場面でいえば「あの人は仕事が出来ない人だ」と思うか、「自分の言い方が適切でなかったからできなかったのではないか」と発想の転換に役立ちます。
3.生活の中での「バリア」
- 生活の中で「バリア」を感じることはありますか?
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人とぶつかることが多いことでしょうか。白杖を持っていても、点字ブロックの上を歩いていてもぶつかってしまうことがあります。
私の見え方は、5円玉の穴の中から覗いているような見え方で、真正面に来て初めて認識できます。白杖は、自分が見えにくいことを気付いてもらいたくて使っていますが、なかなか周囲に認知されていないと感じます。
また「白杖=全く見えない」と思っている方も多いので、携帯電話を見ている自分に驚きの眼差しが向いているのを感じる時もあります。
- 「バリア」解消のために取り組んでいることはありますか?
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自分から情報を取りに行ったり、また欲しい情報を自ら発信するようにしています。
4. 社会やブラインドサッカー、ロービジョンフットサルの将来について望むこと
- 社会に「こうなってほしい」ということはありますか?
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障がいのある人に対して、「かわいそう」と思わないでほしいと思います。苦手なことがあるのは誰しも同じことです。自分に障がいがあったら、と自分の身に置き換えてもらって「必要なところを手伝う」相手として見てもらえると嬉しいです。
- ブラインドサッカー、ロービジョンフットサルの今後に望むことはありますか?
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ブラインドサッカーやLVFを始めとする、障がい者スポーツが普及はもちろん、同じ障がいがある人同士の交流はその人の生活の質向上に大きな役割を果たせるのではと考えています。便利な制度についての情報交換や、共有の話題がある横のつながりがあると心強いと思います。
また障がいのない人たちにとっても、障がい者スポーツを通じて、障がいがる人も自分と同じようにスポーツを楽しみ、お腹の底から笑う人たちなんだ、ということを体感する機会になればと願っています。
5.自分の置かれた環境に悩んでいる人たちへのメッセージをお願いします
- 社会的養護のもとで育つ子どもたちにひと言お願いします。
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児童養護施設で暮らしている時、遠出する時には大型バスを貸し切って移動していました。人の思い出に残る場所にいられることが素晴らしいと思い、私の将来の夢はバスの運転手になりました。障がいの発症によりバスの運転手ではなくなりましたが、趣味で始めたサッカーが私の職業となりました。
諦めることは簡単で、出来ない理由を自分の境遇のせいにすることもできます。ですが、自分の身に起こることにマイナスなことはきっとない。マイナスと感じることを、どうしたらプラスに感じられるかを考えることに時間を割いてほしいなと思います。頑張れば人生は開けると信じて、前進していってください。
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