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朝日新聞厚生文化事業団トップページ 最新のお知らせ 連載インタビュー 「障がい」ってなに?もっと身近に、聞いて、感じて、知ってみよう! 第6回 :西澤陽一郎さん

最新のお知らせ

連載インタビュー
「障がい」ってなに?もっと身近に、聞いて、感じて、知ってみよう!
第6回 :西澤陽一郎さん

西澤 陽一郎 (にしざわ よういちろう)さん
リコージャパン株式会社 人事・コーポレート本部 人事センター 人事部 採用グループ

千葉県出身。福祉機器の会社へ就職後、事故で25歳から車いす生活となり、20年以上が経過。介助犬との生活をきっかけに親元を離れ1人暮らしを再開。2020年1月からはリコージャパン株式会社へ転職し、人事部採用グループで障がい者採用担当。介助犬のラッキー君と共に勤務し、充実した日々を過ごす。休日は妻とラッキー君と一緒にいろんな場所へお出かけし楽しく生活している。

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目次

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1.にしざわさんは、どんな人?

にしざわさんのこと、教えてください。

障がいのある人、車いすを利用する人などを身近に意識することのない子ども時代を過ごしました。勉強も運動も苦手でしたが、いつもニコニコしていて、楽しく学校に通っていました。

中学校からは吹奏楽に熱中し、金管楽器を演奏。各種コンクールや定期演奏会、文化祭といった催しでの演奏に向けて練習に明け暮れていました。15歳の時には音楽での交流を目的に、オーストラリアへ留学したこともあるんですよ。

この留学経験を機に、海外での生活に理想を抱くようになり、高校卒業後にはワーキングホリデーを利用して1年間カナダに滞在。

カナダからの帰国後、介護保険制度の施行により活気づいていた、車いすや介護用ベッド、歩行器といった福祉機器を扱う企業に就職しました。

就職して1年が経ったころに受傷し、車いす生活を開始。リハビリをすれば元のように歩けるようになると思っていましたが、入院中、主治医から「障がい者手帳の申請をするから書類を準備して」と言われ、再び歩けるようにはならないのだと気づき、とても落ち込みました。

2.車いすでの新しい生活

告知でショックを受けたものの、どのように気持ちを切り替えたのですか?

落ち込む気持ちを心機一転、何が何でも職場復帰しようと考え、リハビリテーション病院での厳しいリハビリを頑張りました。自分を追い込むために家族や友人によるお見舞いも断ったほどです。無事に退院したものの、復職にあたってはそれなりの苦労がありました。

私が復職を希望する気持ちに反し、上司から「本当に戻ってくるの?」と聞かれたり、復職が決まっても異動先の部署が決まらず、退院後も家で会社からの連絡を待つだけだったり、といった期間もありました。そのような中で、同僚が「早く戻ってきて」と励ましてくれたのは、大きな心の支えになりました。

営業職から内勤事務への異動が確定した後も、社内のバリアフリー対策が必要となりました。具体的には、社内のトイレの段差を解消するためのスロープの設置や、車いすの動線を考慮した改修が必要でした。改修が完了した後、同僚たちから「職場の環境が改善されて使いやすくなったね」という声をもらい、段差の解消や安全な動線確保は、健常の人にとっても使いやすくなるのだなと実感しました。

3.介助犬との出会い

車いすで社会に復帰したにしざわさん。介助犬との出会いを教えてください。

前職の会社では、国内で最大の福祉機器展に出展をしていました。この展示会を訪れていた人の中に介助犬を連れた人を発見したのが、私が介助犬を迎え入れることになったきっかけです。

「介助犬」という名前だけは聞いたことがありましたが、見たのはこの時が初めてです。「介助犬は実在したんだ!」という驚きからか「ビビビ」と来ました。

私は話好きとはいっても、自分から人に話しかけるのは苦手なのですが、この時ばかりは自分から介助犬を連れている方に声をかけ、介助犬を迎え入れるまでのことを教えてもらい、また介助犬を紹介してくれる団体との橋渡しも担ってくれました。

そこからは怒涛のスピードで私の生活が変わりました。

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1頭目の介助犬ミドル君
にしざわさんが介助犬を受け入れるまでにやったこと
  • 団体の職員さんとの対面
  • 調査票の記入

介助犬を迎え入れるには、医師による助言がないといけないんだって。介助犬がユーザーさんの自立支援に役立つことや、特にどういう手助けをしてくれるわんちゃんだと良い、といったことを書いてもらうそうだよ。

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  • 訓練センターでの合同練習

介助犬は、ユーザーさんの障がい特性に応じて介助内容が変わるため、ユーザー候補、介助犬候補、双方が合同で訓練する必要があるんだって。

  • 自宅での合同練習
  • 指定法人による認定審査

この審査を合格して初めて「介助犬」として認められるんだって。

ほかには、介助犬と暮らすための費用助成を受けるための県や市などの自治体への申請もあるよ。

介助犬のほか、目が見えない人を手助けする盲導犬、耳が聞こえない人の生活をサポートする聴導犬など、障がいのある人をサポートする犬を「補助犬」と総称し、この補助犬について定めた「身体障害者補助犬法」という法律に従って、いろいろな決まり事があるんだよ。

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補助犬のユーザーさんだけでなく、補助犬を連れた人のお店への入店や商業施設、公共施設への入館を断ってはいけない、という周囲の人たちへの決め事もあるんだよ。

法律には補助犬のユーザーさんだけでなく、補助犬を連れた人に対して、お店や会社、病院や商業施設など、どんな場所でも入店(入館)拒否はできない、という周囲の人たちへの規定もあるんだよ。

人を手助けしながらお仕事をする補助犬を見かけても、声をかけたり触れたりせず、そっと心の中で応援してあげてね。

補助犬情報センターのHPに詳しい流れが紹介されているよ。
補助犬情報センター

4.現在の職場(リコージャパン)に出会うまで

無事に介助犬を迎え入れたにしざわさん。生活を支えてくれる相棒との生活はどうでしたか?

親元から自立したいという思いから、トントン拍子で介助犬を迎え入れましたが、職場で介助犬への理解を求めるのに苦労しました。直属の上司にはすでに相談していましたが、その上司が話を上に通してくれず、長く放置されてしまいました。

しびれをきらせて私自身がその上に直談判しましたが、「本当に介助犬が必要なのか」と言われたり、「介助犬の利用はワガママではないか」と言われたり。また、上司の独断で「犬が好きか」というアンケートを職場で実施されていたこともわかり、とても傷つきました。最終的には、介助犬同伴での出勤が認められましたが、結局「犬が好きではない」と多くの人たちが答えた職場を離れ、別の事業所へ異動することになりました。異動先では私が最年長ということもあり、事業所を引っ張っていくつもりで仕事に励み、大きなプロジェクトも担当。通算18年を前の会社で過ごしました。

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現在の職場であるリコージャパン株式会社に就職するまでの経緯を教えてください。

新しいことにチャレンジしたいと思っていたところでリコージャパンの求人を見つけたのがきっかけです。

介助犬を伴って面接に臨むことにワクワクしていましたが、なんと面接前日、介助犬は面接会場へ行くためのエレベーターに乗れないので業務用エレベーターを使用してほしいと連絡が入り、とてもがっかりしました。

そのことに抗議もしましたが、やはり結果は変わらず、ここでの採用はないだろうと思いながらも当日の面接へ向かったことを覚えています。

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いざ面接の担当者に会うと、介助犬がエレベーターを利用できないことに対してお詫びがありました。どうやら、会社としてもエレベーターの利用を管理会社に掛け合ってくれたようですが、それでも許可が下りず、苦渋の申し出だったようです。そんなこんながありながらも面接自体は和気あいあいと進み、またラッキー君の存在が場の雰囲気を和ませる役割をしてくれたのか晴れて採用に。現在は「車いす専用」と区分けされたエレベーターを利用して出社しています。

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2頭目の介助犬ラッキー君
にしざわさんの一日の様子を教えてください。
6:30 起床、身支度
7:30 家を出発
9:00 出社、仕事
17:30 退社
19時頃~ 帰宅、食事、ラッキー君のお世話をして就寝
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職場の様子

5.社会の「バリア」

今まででのお話しのなかでもたくさんの「バリア」を感じましたが、ほかにはどのようなことに「バリア」を感じますか?

自分の考え方によって「バリア」の感じ方は大きく異なります。

介助犬を迎え入れるまでは、街中がバリアだらけだと感じていました。友達が行ける場所でも、車いすの自分は行けないことに引け目を感じる。車いすに乗る自分への人の目線が気になる。段差の前で困っていて、手助けの申し出も断ってしまう、といった時期もありました。「社会のバリア」というよりも「自分の心のバリア」が厚かったと思います。この時期は外出を億劫に感じていました。

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ですが、介助犬を迎え入れてからは、自分に笑顔が戻り、自然と「ありがとう」と言えるようになりました。嫌なことがあっても、「また頑張ろうか」と声をかけながら気持ちを切り替えやすくなりました。

採用担当という初対面の人と会話する機会の多い現在では、ラッキー君が場を和ませるのにも一役買ってくれ、いつも助けられています。今では、介助犬に出会うきっかけをくれた車いす生活に感謝し、この生活を誇りに感じています。

6.社会に変化をのぞむこと

ラッキー君のおかげで「心のバリア」が取れたのですね。今後、「社会のバリア」に変化を望むことはありますか?

私が車いすを利用し始めて20年になります。以前と比較すると、格段にハード面はバリアフリー化されたと感じます。

ですが、補助犬に対する社会の理解が広がっておらず、この点は悲しい思いをすることもまだまだあります。ペットとは異なり、補助犬はユーザーの身体の一部でもあると捉えてもらい、お店や会社、病院や商業施設など、どんな場所でも入店(入館)拒否はできないという認識を持つなど、正しく理解されることを望みます。

つながるくんコラム

障がい者採用担当としてのにしざわさんからメッセージ

現在は、多くの職場で障がいのある人の採用が進んでいます。企業への就職を目指して日々努力する人へのメッセージをお願いします。

採用担当者は、その方がどういうポジションだったら活躍できるかを思い描きながら面接しています。ご自身の強みと、できないことをしっかりと理解し、伝えていただくことでミスマッチが減り、お互いがハッピーな採用につながると思っています。

リコージャパンもそうですが、企業にはさまざまな業務が存在します。適切な配慮を求めることで、障がいの有無に関わらず、誰もが「自分らしさ」を発揮して活躍できる場所が存在すると信じています。

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