ちょコム募金:バナー


現在位置: ホーム > 最近の気になるニュースから > 詩をよみ開いた心の扉 少年受刑者たちの詩集、単行本に

詩をよみ開いた心の扉 少年受刑者たちの詩集、単行本に

(2011年2月14日朝日新聞夕刊こころ面から)


 泣き、笑い、怒る。幼い頃の情操教育が十分でなかったため、ごく普通の感情を表現できない青年たちがいます。そんな彼らが、詩をつくるなかで、心の扉を開いていく――。先ごろ出版された『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』(長崎出版)には、詩を読むことで変化した受刑者たちの心象風景が鮮やかに切り取られています。(宮代栄一)

 詩集の編集と詩作指導にあたったのは作家・寮美千子(りょうみちこ)さん(55)。4年前、自宅近くにある奈良少年刑務所を見学に訪れたのがきっかけで、同刑務所で行われている「社会性涵養(かんよう)プログラム」への協力を始めた。
 「刑務所ということもあり、正直言って、最初は少し怖かったんです」と振り返る。「でも、授業を受けにきてくれたのは、受刑者の中でも、みんなと歩調をあわせるのが難しかったり、内気で自己表現が苦手だったり、虐待された記憶があったりして、心を閉ざしがちな子たちばかりでした」
 寮さんによると、彼らの多くは、家庭では育児放棄され、学校では落ちこぼれとして扱われるなど、人としてまともに相手にしてもらった経験が少ない。「結果として、情緒が耕されていない。荒れ地のまま」なのだという。
 授業は計6回。生徒は10人前後で、多くは20代前半の青年たちだ。初めて教室を訪れた寮さんが目にしたのは、ふてぶてしく座り込んだり、今にも逃げ出すかのようにびくびくしていたり、表情がなかったり……といった姿。
 そんな彼らと始めたのが、童話と詩を中心にした「物語の教室」だった。
 はじめに、寮さんの書いた童話をみんなで読んだり演じたりし、うち解けてきたところで、詩を書いてもらう。テーマが見つからない時は好きな色について書き、みんなの前で発表。それを仲間で合評する……という流れだ。
 たとえば本のタイトルになった「空が青いから白をえらんだのです」という一行詩。
 「くも」という題のこの詩を作ったのは普段ほとんどものを言わない子だった。この詩を朗読したとたん「今年はお母さんの七回忌です。お母さんは病院で、つらいことがあったら空を見て、そこに私がいるから、とぼくに言ってくれました」と語り出した。  これに対し、ある子は「この詩を書いたことがA君の親孝行だと思いました」といい、ある子は「ぼくはお母さんを知らないので、空を見たらお母さんに会える気がしました」と感想を話した。
 「でも誰一人、否定的なことは言わないんですね。朗読をきちんと聞き、終わったら拍手し、共感したことを声に出して言う。密度の高い『場の力』と言ったらいいのでしょうか」。こうした経験を通じて、子供たちは、まるで魔法にかかったように、大きく変わっていった。
 授業の成果として一昨年秋、詩の一部を奈良少年刑務所で開かれた「矯正展」で展示したところ、反響が大きく、単行本刊行が決まった。社会性涵養プログラムも高い評価を受け、講師の一人である寮さんのもとには各地から講演依頼が相次いでいる。
 「犯罪は憎むべきもの。でも彼らを教えてきて、『人は変わることができる』ということを知りました」
 次のような詩を読んだ子がいた。

 こんな未来を ボクは望んだだろうか
 こんな未来を ボクは想像もできなかった
 こんなボクの どこを愛せるの?
 なぜ そんなにやさしい眼(め)で見れるの?
 「だいじょうぶ まだやり直せるよ」って言えるの?
 こんなボクなのに……
 こんなボクなのに ありがとう かあさん

 「『おかえり』と温かく迎えてくれる社会があってこそ彼らは更生できます。たとえ心が豊かになって出所しても、モンスター扱いされ、差別を受ければ、また心が折れてしまうかもしれない。『やり直せるから』って皆が言える社会こそが住みよい、幸せな社会ではないでしょうか」

前のページに戻る

このページの先頭へ戻る▲

ホームへ