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国際離婚の子、守るには 連れ帰り規制ハーグ条約、是非論

(2011年2月3日朝日新聞朝刊社会面から)


 国際結婚が破局して一方の親が子どもを無断で自国へ連れ帰った場合、元の居住国に戻すことを定めた「ハーグ条約」。欧米から加盟を求められ、菅政権は首相の訪米時の加盟表明も視野に検討し始めた。だが、外国で家庭内暴力(DV)を受けて帰国した母子の保護などの観点から慎重論も根強い。(鶴岡正寛)

 ●欧米から圧力
 外務省は昨年5月から、子どもを連れ帰った日本人ら当事者を対象にアンケートを実施。同省ホームページなどを通じて加盟の賛否を尋ね、11月までに64件の回答を得た。2日に発表された結果によると「締結すべき」が22件、「締結すべきではない」が17件だった。
 日本人でハーグ条約の対象になる典型例は、外国人の夫と離婚し、子どもを連れ帰った女性だ。DV被害などを逃れるために帰ってきた女性と子どもを保護する狙いもあって、日本はこれまで加盟の道を選ばなかった。
 一方、外国の元夫らは、子どもを連れ去られた事態を「拉致」「誘拐」と主張。米連邦捜査局(FBI)などは「誘拐」事件として扱っている。
 こうした元夫らの訴えを受け、欧米の議会や政府は、日本政府に条約加盟の「圧力」を強めている。米下院は昨年9月、日本政府に早期加盟を求める決議を可決。クリントン米国務長官は前原誠司外相に12月と今年1月の会談で早期加盟を要求。前原氏は1月の会談で「真剣に検討していきたい」と応じた。フランス上院も1月、早期批准を促す決議をした。

 ●民主に慎重論
 外務省によると、外国政府が日本政府に訴えた日本人による子どもの連れ帰りは、今年1月現在で米国100件、英国38件、カナダ37件、フランス30件となっている。
 5月以降オバマ大統領と会談する予定の菅直人首相は1月の内閣改造時、江田五月法相への指示書で、条約の加盟について「検討を進める」と明記。1月下旬には関係省庁の副大臣会議を設置した。
 菅政権は、条約の国会承認を受ける場合、国内法も同時に成立させることを想定している。DV被害の際に返還を拒否できる特例などを設ける方針だ。
 だが、政権の足元の民主党内や法務省内には依然として早期加盟に慎重な意見が根強く、具体的な議論が進むかどうか見通しは立っていない。

   *
 1月25日の民主党ハーグ条約検討小委員会で紹介された日本人女性の主な証言は次の通り。

 ●誘拐犯になるけど
 ■ケース1 30年暮らした米国から3年前に子どもと帰国。米国では誘拐犯になることは分かっていたが、子どもの安全を考えると、それしか手段がなかった。子どもが米国に送り返されれば、性的虐待を受けて、地獄の毎日を過ごすことになる。

 ●主張通らず母敗訴
 ■ケース2 (離婚などに関する)公平な裁判を信じていたが、暴力を振るう元夫の事実無根の主張が(米国の)裁判所で通り、日本人の私の言うことは通らず、敗訴してしまう。条約加盟にどんな特例をつけても、子どもが米国に行けば母親の私とは会えなくなるでしょう。

 【ハーグ条約締結をめぐる主な意見】
 (外務省が2日発表した同条約に関するアンケート結果から)
 ●条約締結に賛成の意見
 ・国際結婚と離婚が増えるなか、問題解決の国際ルールとなっている条約の締結が必要
 ・子どもを連れ去った方が有利という状況を変えるべきだ。日本は現状をこれ以上放置すべきではない
 ・日本は子どもの拉致を擁護する異常な国と海外でみられている
 ●条約締結に反対の意見
 ・日本の文化や価値観になじまない
 ・DV被害などから避難する最後の手段として、連れ帰りは必要。日本国民を守るため条約を締結すべきではない
 ・(子どもをいったん本国に帰してから)外国で裁判が行われ、高額な弁護士費用や言葉の壁といった問題や、日本人の親に不利な判決が出る恐れがある

 ◆キーワード<ハーグ条約> 正式には「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」。国際結婚した夫婦が離婚し、一方の親が子どもを自国に連れ帰った場合、子どもを元の居住国に戻すことを定める。16歳未満の子が対象。日本では、日本人女性が欧米などで結婚した後に離婚し、子どもを日本に連れ帰るケースが多いとされる。日本が条約に加盟した場合、外国にいる元夫から申し立てがあれば、日本政府の責任で子を捜し出し、元の国に戻すことになる。84カ国が加盟し、主要8カ国(G8)で未加盟は日本とロシアだけ。2004年には国連子どもの権利委員会が日本に加盟を勧告した。

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