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発達障害、働いて気づく 失敗重ね退職…支援の手

(2010年8月25日朝日新聞朝刊生活面から)


 学校の勉強はできたのに仕事で失敗ばかり。同僚ともうまくつきあえない――。こんな悩みを抱える人の一部に「発達障害」=キーワード=があることがわかってきた。学生時代はやり過ごせても、仕事に優先順位をつけ、場の空気を読むといったことができず、社会人になって問題になる。障害を自覚する人への就労支援の動きも出てきた。(岡崎明子)

 東京都内に住む松浦早希さん(31)は大学を卒業後、建設会社の一般職として働き始めた。しかし、失敗してばかりだった。「同時に複数の仕事を命じられると優先順位がつかず、頭の中が『フリーズ』してしまった」
 仕事ができないことを理由に同僚に陰口をたたかれるなど職場に居づらくなり、1年半で退職した。退職後は、パートで入力オペレーターとして働いたが、昼休みの雑談内容に興味が持てず、再び人間関係が悪くなり辞めた。
 学生時代から、「何か人と違う」ことに悩んでいた。カウンセリングに通うようになり、臨床心理士に初めて「アスペルガー症候群かもしれない」と指摘された。アスペルガー症候群は知的障害はないが、対人関係がうまくいかない、興味の幅が狭いといった特徴がある。
 障害について調べているうちに、発達障害者の就労を支援する「就労支援推進ネットワーク」(http://shuro−shien.net/)の存在を知った。理事長の小林浩一さん(38)とやりとりするうちに、自分が人の話を5〜6割程度しか理解していないなど、少しずつ障害を理解するようになった。
 小林さんの勧めもあり、松浦さんは精神障害者保健福祉手帳を取得。障害者枠での就職を目指し、5月に現在の会社に契約社員として採用された。会社は松浦さんの障害を理解し、雑談しなくても済むよう離れた席をつくった。仕事も一度に一つずつ、依頼している。「ずっと働きたいと思っていたので、うれしい」
 IT企業に勤める小林さんは、元中学校の教員。退職後に発達障害について初めて知った。「教員時代に知っていれば」と後悔したのをきっかけに2008年、支援活動を始めた。
 一般の人に発達障害について知ってもらうことが大切と、発達障害と直接関係ない分野の人も巻き込みながらセミナーを開催している。当事者向けには、自分の状態の伝え方などの学習会を、定期的に開催している。小林さんは「オセロゲームのように、発達障害の理解者をどんどん増やしていきたい」と話す。
 一方で、高橋今日子さん(34)のように、職場で障害について告白できない人もいる。高橋さんは、五つの医療機関を回り、ようやく注意欠陥多動性障害(ADHD)と学習障害(LD)の傾向があることがわかった。現在の仕事は歯科技工士。「注意力がない人に、仕事を任せられない」と解雇されるのを恐れ、なるべく簡単な作業を一人でしているという。
 「発達障害の人の就活ノート」(弘文堂)の著書もある障害者専門の人材紹介会社テスコ・プレミアムサーチ(東京都千代田区)の石井京子社長は、発達障害の人が就職するには、「自己理解」が最も大切だと指摘する。
 「障害の特性として自分を客観視できないため、履歴書が書けない、面接で自己紹介できないなどの壁がある。自分の障害が伝えられなければ、企業もどういう仕事を用意すればいいのかわからない」。発達障害がある人からは、月40件ほどの問い合わせがある。ただ受け入れ企業がまだ少ないのが悩みという。
 各都道府県にある地域障害者職業センターや、一部のハローワークにいる「就職チューター」も、就職相談に乗っている。

 ●成人外来、絶えない予約  昭和大付属烏山(からすやま)病院(東京都世田谷区)は2年前に、全国でも珍しい成人の発達障害外来を開設した。毎月初めに新患予約を受け付けるが、開始時間から1時間で約200本の電話が入り、すぐ枠が埋まってしまうという。
 文部科学省の調査では、普通学級で発達障害が疑われる児童・生徒の割合は6・3%。しかし、発達障害について認識が高まったのはここ20年ほどで、現在の30〜40代は子ども時代に障害が見過ごされていた人も多い。
 外来には、社会人になって発達障害を疑った人や、ほかの精神科外来で統合失調症やうつ病などと誤診され、長期間の治療が続いている人たちが来るという。
 昨年7月からは、アスペルガー症候群の人を対象にデイケアを始めた。月2回土曜日に開かれ、働いている人や求職中の人ら約50人が参加する。平均年齢は31歳。1年間かけて、働くうえで役立つ対人関係スキルを学ぶ。
 参加者の一人、大手企業に勤める女性(38)は、職場の人間関係がうまくいかず10年近く休職と復職を繰り返してきた。うつ病と診断されていたが、昨年6月に初めて、アスペルガー症候群と診断を受けた。現在、職場に診断名を伝える準備を進めている。「産業医には、『うちみたいな大企業に勤めているのに、発達障害のはずがない』と言われ悔しかった」
 加藤進昌院長によると、診断を受けることで、人付き合いが苦手なのは、性格のせいではなく障害の特性だとわかる、特性をどういかせばいいのか考えることができる、などのメリットがあるという。9月からは、両親のどちらかが当事者で、子どもも発達障害の可能性がある家族を対象に「親子のつどい」を始める。

 ■アスペルガー症候群の人の特徴
・言葉の「ウラ」が読めない ・物事を全体像としてとらえるのが難しい
・同時進行が必要な仕事は難しい
・対人交渉が重要な仕事は苦手
・予想外の仕事や予定に対応できない
・相手の表情を見て、察することができない
 (昭和大付属烏山病院・加藤進昌院長の「ササッとわかる『大人のアスペルガー症候群』との接し方」から)

 ◆キーワード
 <発達障害> 何らかの原因による先天的な脳機能の障害で、運動や認知、言語などの発達に出る。アスペルガー症候群のほか、落ち着きがない、衝動的な行動を取るなどの注意欠陥多動性障害(ADHD)や、読み書きや計算など、ある特定分野が困難な学習障害(LD)などがある。

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